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中古サックスの魅力

KING サックスにはステンシル期とオリジナル期が存在します(キングの全モデル)

投稿日:2020年12月26日 更新日:

アメリカン・オールド・サックスのキソ知識〜KING/キング

“KING”モデル(ステンシル/自社モデル)期に入れられていた彫刻。”KING”のモデル名と”THE H.N.White Co,”の社名そして工場の”CLEVELAND”彫刻が見えます。

今回はアメリカン・オールド・サックスの魅力を知るための基礎知識「キング/KING」編です。

キングのサックスについては、部分的にモデル名は知っているけど、どんなメーカーだったかよく知らない…という方が意外に多いと思います。

また、KING知ってるよ…という方もKINGのステンシルの事や「KING」という社名が「キング最盛期よりも後の名前」ということなどは意外にご存知ないのではないでしょうか。

この記事でゼファースーパー20以外のモデルも知って、サックス探しをもっと楽しみましょう!

 

キング・サックスの特徴

↑ KING Voll-TrueII。左が後期の支柱デザイン。真ん中が前期デザイン。

キングについて知っておきたいポイントは以下です。

  • 全盛期のプロ・モデルは素材・彫刻ともに凝っていて、未だに高値で取引されている
  • シルバー・ソニック(銀素材を使った管体)の元祖
  • 「ゼファー/Zephyr」「スーパー20/Super20」で有名

このポイントに加えて、以下のようなキング・モデルの歴史も知っているとさらに楽しくなります。

キング・サックスをネット・オークションで楽しむための知識は以下の3つです。
  • キングのサックスは大きく5期に分けられる
  • キング・サックスには超レアキャラが存在する
    • “ARTIST”モデル
    • Saxello/サクセロ ソプラノサックス
    • Super21 アルトサックス
  • キングの絶頂期モデルは「ゼファー・スペシャルからスーパー20」

キングのサックスは大きく5期に分けられます。

  • ステンシル期:Kohlert&sons、Evette & Schaeffer、C.G.Connなど
  • 自社製 初期:KING、VOLL-TRUE
  • 自社製 全盛期:VOLL-TRUEⅡ、Zephyr、Super20
  • 買収後/後期ステンシル期:カイルベルト、S.M.L 、Amati製
  • 買収後/最後期:Cleveland、Super20/21

※全モデルの製造年表は以下の記事です。

KING/HN.White キングのモデル・シリアルナンバー表

 

KINGステンシル期

↑1916年製「evette&schaeffer」。ベル部に”カール・フィッシャーNew York”の名前が見えます(真ん中)。ベル部側面には”Evette&shaeffer”そして”Crampon”の文字が確認できます。1910年まではこうしてKINGモデルもevette&shaefferモデルを販売していましたが、カール・フィッシャーに販売権を独占されてしまいます。画像元:e-bay/scottrussmusic

「KING」社はもともと「H.N.ホワイト/H.N.White」という社名です。

”KING”はもともと社名ではなく「H.N.ホワイト」社が販売する楽器全てをさす「モデル名」でした。

創業当初、オリジナル制作のトロンボーン「KING」モデルが評判になり、その後トランペットやフリューゲル・ホルンなどの金管楽器の製造で事業を軌道にのせていきます。

当時のこれら全ての楽器が「KING」モデルでした。

“KING”サックス、スタート

↑1900〜1908年頃のV.Kholert&sons製テナー・サックス。第二次大戦まではKINGモデルのステンシル供給先でした。画像元:National Music Museum-University of South Dakota

1908年、好調だった金管部門に加えて木管部門(サックス・クラリネット)がスタートします。

当初はまだH.N.ホワイト社に木管楽器の製造工場がなかったため「KING」モデル・サックスはクランポンの当時モデル“Evette&Schaeffer”を使って輸入・販売することになりました。(上の画像参照)

ちなみに、このような楽器の販売方法を「ステンシル(またはOEM)」と言います。ステンシルは他社製造の楽器で、管体には手を加えず社名・モデル名の「彫刻、スタンプ」を変えただけのものです。

 

1910年になるとカール・フィッシャー社“Evette&Schaeffer”の独占販売権を獲得されてしまい

今度はKholert社のステンシルを輸入・販売します。

1915年、第一次世界大戦が始まりKholertのサックスが輸入できなくなります。

そのためアメリカ国内で学生向けサックスを製造していた「クリーブランド」社のサックスをステンシルとして取り扱うようになりました。

↑H.N.White買収前の時期と思われる”Cleveland/クリーブランド”アルトサックス。クリーブランド社は1925年にH.N.ホワイトに買収されます。画像元:Reverb

こうして自社製造の「キング/KING」モデルを発売する1916年までは、他社製のサックスに「KING」モデル名と「H.N.White」の社名をつけて販売するという方法をとっていました。

ちなみにKohlertやCrampon、Evette&Schaefferについては、以下の記事で触れています。

セルマー以前のサックス〜1936年までのセルマーはクランポンより「格下」だった!

自社製初期

↑キング自社製の第1号モデル「KING」。1916〜1929年くらいまでこのモデルが生産されました。ここからZephyr終了期まで”H.N.White”がブランド名です。

動画元:Lawrence Horwood

自社製”KING”そして後の代表的モデルにつながる”VOLL.True”を生産していたのがこの時期です。

 

KING

basic-sax掲載のKING Cmelo sax

↑KINGのCメロサックス”No.1005″モデルとテナーサックス”No.1006″モデル。<出典元:The Bassic Sax Blog

1917年に自社の木管製造工場が完成したH.N.ホワイトは自社製”KING”モデルの生産をスタートします。

この自社製KINGプロフェッショナル・モデルをうたっていました。

KINGモデル 1916-1920年のラインナップ(当時のカタログより)
  • C Soprano No.1001 “Straight Model” Cメロ・ストレート・ソプラノ
  • Bb Soprano No.1003 “Curved Model” カーブド・ソプラノ
  • Alto No.1004 アルト 
  • C Melody No.1005  Cメロ
  • Tenor No.1006 テナー
  • Baritone No.1007 バリトン

そして1924年の後半には

Saxello Soprano No.1000 サクセロ・ソプラノ

もラインナップに加わりました。

 

サクセロも含めたサックスの全バージョン(ソプラノ、アルト、テナー、バリトン、Cメロ)がこの”KING”モデル期に製造されました。

 

KING”Voll-True”

1930年ころから“KING”モデルの次に販売されたのが“KING・Voll-True”モデルです。

この「Voll-True」「KING」で不評だった低音部分のシステムを改良したモデルでした。

また以下の仕上げバリエーションを用意していました。

  1. ブラス管体・ハイ・ポリッシュ
  2. ブラス管体・ゴールドラッカー
  3. シルバープレート管体・サテン仕上げ・ゴールドインナーベル+ゴールド・キィパーツ
  4. ゴールド・サテン仕上げ・ブラッシュドベル
  5. Artistスペシャル・ハンドブラッシュド
  6. キングデラックス/KING DE LUXE (ゴールド・プレート、パールキィ、豪華彫刻)

<参照資料:hnwhite.com所蔵の1932年カタログ

その後「VOLL.True」は改良され「VOLL.TrueII」となり、ゼファー/Zephyrへとつながります。

KING”Voll-TrueII”

この「Voll-True」改良型モデルから管体の構造、デザインにホワイト社独自のものが大幅に加わり、いよいよ本格的なKINGサックス時代に入ります。

 

自社製 全盛期

Voll-TrueⅡ、そしてその発展型として発売されたゼファー、そしてゼファーのハイ・グレード・バージョンとして開発されたゼファー・スペシャルと、さらにその発展型のSuper20が生産されていた時期です。

※ゼファーは5回のマイナーチェンジ期があり、スーパー20は6回のマイナーチェンジ期があります。詳しくは以下の記事を参照してください。

 

※キング最盛期モデルについては以下の記事で「かなり詳しく」解説しています!

KING サックスで価値が高いモデルはどれ?〜ゼファーとスーパー20の全てが分かる!〜

 

買収後/後期ステンシル期

↑左からAmatiの”SuperClassic”、SMLの”GoldMedal” そしてKEILWERTHの”TONEKING”。

H.N.ホワイト社は全盛期を過ぎ1965年Seeburg社というジューク・ボックスの製造で成功していた会社に買収されます。

(Seeburgは当時、自社での音楽録音に関する楽曲コンテンツとその供給先を傘下に入れようとしていたらしく、同年にピンボールゲームの会社ドラムマシンの会社なども買収しています 参照:“Seeburg Corporation”wikipedia)

その際「H.N.ホワイト」社は社名を「キング」社に変更されます。

この時期は看板モデルの「Zephyr Ⅳ期モデル」「Super20 Ⅳ期モデル」も生産されていましたが、同時に以下の他メーカー・モデルがステンシル「キング」ブランドとして販売されました。

 

そして1967年には製造拠点がそれまでのクリーブランド工場からイースト・レイク工場に移行されました。

3ブランドによるステンシル・モデルの販売は1980年頃まで続きました。(シリアル・ナンバー表参照)

 

King-Tempo/キング・テンポ

↑カイルベルトが製造していた「キング・テンポ」。

動画元:import Sax

このモデルはユリウス・カイルベルト「New King(ToneKing)」モデルのステンシルです。

カイルベルト1920年代からドイツ語圏ですでにいろいろなメーカーのステンシルを請け負ったり技術提供した実績を残していました。

そしてこの1965年前後は、Armstrong社の傘下だったH.Coufのサックス“Sperba1”“Superba2”や、SelmerUSA(正確にはH&ASelmer)の“Bundy”ブランドなど、特にアメリカのブランドのステンシルを多く請け負っていました。

↑KINGとは関係ありませんが、ちょうど1965年製のH&A Selmer カイルベルス製サックス”Bundy Special”を紹介している動画。

ちなみにカイルベルトはドイツ(この頃は西ドイツ)のサックス・ブランドですが、当時のドイツはちょうど東西に分かれており、東ドイツはまだ「鉄のカーテン」の向こう側で情報がほぼ入ってこない、という状況でした。

(初期のキング時代にステンシル契約をしていた同じくドイツのKholert社は1966年に倒産します。)

 

king marigaux/キング・マリゴー

↑S.M.LがKINGに依頼され製造した「キング・マリゴー」。このモデルは他のキング・ステンシルと違ってS.M.L社最後のプロモデルといえる造りになっています。

動画元:サックス買取ラボふくおか

このモデルはSML“Gold Medal Mk.II/ゴールド・メダル MkII”モデルのステンシルです。

SMLについては以下の記事で解説しています。

S.M.L/ストラッサー・マリゴー・ルミール

ステンシルというと、どうしても「下位、中位クラス」のサックスを扱うイメージですが、

このKING-Marigauxは特殊で、下位モデルではなく、「本家SMLの最終型プロ・モデル」という位置付けになっています。

 

King-Lemaire/キング・ルミール

↑チェコの大手メーカー「Amati」社製の「キング・ルミール」。

動画元:esteban pascual

このモデルは、Amati/アマティ“Super ClassicII/スーパー・クラシックII”のステンシルです。

Amati/アマティKohlert/コーラートは「チェコのブランド」として紹介されますが、実はチェコは「ドイツ・ブランドの生みの親」といえるほど成り立ちから密接に関係しています。

そしてAmatiは企業というより、どちらかというと「産業協同組合」というものに近いのです。

この当時の「チェコスロバキア」にあったアマティカイルベルトのあった「西側」と違い、いわゆる「東側」のブランドです。

それがなぜアメリカのブランドと交流できたか、というと…

このあたりは歴史的な背景を知る必要があるのでまた別の記事で解説しますが(制作中)

ざっくり言うとチェコスロバキアが「東側でありながら経済自由化の道を歩み始めた時期」だったからです。

 

キングの「非プロ・モデル」

あまり話題にのぼりませんが、キングには「ステューデント・モデル」「中位モデル」も存在しました。

1925年に買収した「クリーブランド」社をルーツとする「Cleveland/クリーブランド」モデルや「American Standard/アメリカン・スタンダード」モデルがそれです。

この「非プロ・モデル」は、大きく2つの時期に分けられます。

  • 最初期”KING”モデルの頃に販売されていた時期
  • キングがUMI傘下になりConn-Selmerに統合されキングのサックス 部門が廃止されるまで

 

「非プロ・モデル」の解説は以下の記事でご覧ください。

→『制作中』

 

買収後/最後期

↑KING “Cleveland 613″アルトサックス。1980年代製

1985年にスウェーデンのコングロマリット企業に買収され、UMI傘下になって以降のキングは
上記「Cleveland」ラインを中心とした「非プロ・モデル」の製造が主流になります。

この時期の代表モデルはなんと言っても「Super21」ですが、生産を継続していたSuper20も含めUMI傘下になって以降のプロ・モデルは、実際に製造はされておらず残っていた過去の部品を使って生産されました。

 

キング・サックスには超レアキャラが存在する

キング・サックスには3種類の「レア・キャラ」が存在します。
1つはKING”Artist”モデル、次が「Saxello/サクセロ」そしてもう1つは「Super21/スーパー21」です。

特に「Super21」は超がつくレア・キャラなんです。

 

“ARTIST/De Luxe”モデル

↑”KING”モデル期の”Artist”アルトサックス。1916年頃製

「アーティスト」モデルと「デラックス」モデルは”KING”モデルや”Voll-True”モデル製造時期のもので、ちょうどC.G.Connの「Artist Special」と「Virtuoso Deluxe」のような感じです。

フル・パールのキィ類と豪華な彫刻が特徴です。

 

サクセロ

↑こちらは1925年製造のサクセロ。一時期人気が高かったので日本国内でもたまに見ることができます。

動画元:ebaylistentomusic

サクセロはかんたんに言うと「ベルとネックがカーブしたソプラノ・サックス」です。

キング初期のモデルの1つとして製造されました。

現在では「ランポーネ」がこのサクセロのようなソプラノ・サックスを製造していて、日本からでも入手可能です。(石森楽器さんが取り扱っています。)

また、似たような形状で「Buescher」の「Tipped-Bell soprano-sax」というモデルが存在します。

 

キングSuper21

「超レア・キャラ」Super21は、以下のような経緯で造られた「Super20後継」モデルです。

  • 1990年に当時、キングを所有していた「UMI」がグループ会社のCEOであるBernhard Muskantor氏に譲渡。
  • Bernhard Muskantorは音楽にリスペクトを持つ投資家だったため、かつてのKINGブランドの地位・名声を取り戻そう、という方向に舵を切ります。
  • こうして「Super21」プロジェクトが発足しました。(ちなみにこの当時、C,G,ConnもUMIに吸収されていました。)

「Super21」プロジェクト

こうして立ち上がった「Super21」開発計画がどれくらい気合が入ったものだったか、というと…

  • 管体の造りは、Super20の特別仕様バージョンと同じ「総銀製」
  • 1970年代の在庫パーツを使って組み上げた。

こうして世の中に出たSuper21は結果、あまり売れずプロジェクトは失敗に終わりました。
そのため、Super21はほんとうにわずかな本数しか市場に出ていない「幻のサックス」となってしまいました。

まとめ

オークションなんかでも未だに高い個体があったり、同じモデル名でも安い個体があったり…と初心者には特にわかりづらいキング。

ですが未だにビンテージとして高価なモデルは限られていることがわかりますね。

ゼファー・スペシャルやスーパー20以外でも、ヨーロッパのかつてのメジャー・ブランド製ステンシルが存在していたりVol True IIからゼファー〜スーパー20への変遷が楽しめたり、と奥深い魅力を持っています。

第二弾・第三弾の記事では、製造時期によって違いのあるゼファー、Super20について解説します。

KING(ゼファー以降) シリアルナンバー 製造時期の比較表〜ヴィンテージ・サックス〜

-中古サックスの魅力
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執筆者:


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