アドルフ・サックス直後のヨーロッパ・サックス
今回はサックス誕生の1846年から1936年までに登場した個性的なサックスたちを紹介しようと思います。
1936年にセルマーの「バランスド・アクション」そして次モデル「S,B,A」の登場によって現在のサックスの標準形が決まったわけですが、
この時代のヨーロッパには、日本にはほとんど知られていないサックス・ブランドがたくさん存在します。
こういったサックス達を知ることで、よりサックスの知識が深くなってサックスに愛着が湧くと思います。
以下の記事ではサックス進化の過程で外せないブランドに絞って解説しますが、かなり長くなってしまうので
- 1846年頃から1900年まで
- 1900年頃から1936年以前まで
の2つに区切って、ヨーロッパとアメリカのサックス・メーカーの動きを中心にまとめてみます。
最初にこの記事のポイントです。
- セルマー・サックスは最初から「トップ・メーカー」ではなかった!
- クランポンやコーン,ビッシャーはセルマーよりも30年以上早くからサックスを販売していた!
- 1920年代はサックスの黄金期だった!〜彫刻・装飾〜
- なぜバンランスド・アクションが革命的だったのか?〜コストと使いやすさ〜
さいしょに〜サキソフォン誕生からセルマー「バランスド・アクション」まで
セルマーは1936年に「バランスド・アクション」というモデルを発表してからサックス界のトップ・メーカーの地位を確立しました。
セルマーが第一号モデル「モデル22/modele22」を発売した1922年当時、セルマーは後発ブランドで、実はセルマー・サックス誕生より40年以上も前、
「クランポン/Buffet Crampon」を筆頭に
「ドルネイ/Dolet」、「ケノン/Cuesnon」といったセルマーと同じフランスのブランドや、
アメリカの「コーン/C,G,Conn」「ビッシャー/Beascher」といったブランド達がずっと先にサックスを開発・販売していたのです。
1840年代〜1930年代 : サックスのキィ・アクション試行錯誤の時代(フランスが中心)
なぜ、当時トップ・ブランドではなかったセルマー・サックスが現代では「世界標準サックス」となったのでしょうか?これは
- 1800年代後半のヨーロッパの時代背景(第二次産業革命)
- サックスの「キィ・システム」の進化の歴史
に大きな理由があります。
前知識として〜この頃のヨーロッパ・アメリカはどんなようすだった?「第二次産業革命」
↑1890年頃のパリのようす。byDenis Shiryaev
1846年から1900年初頭のヨーロッパとアメリカは、ちょうど「第二次産業革命」のど真ん中でした。
これは、イギリスからはじまった産業革命がフランス、イタリアなどイギリスに近い国々に浸透していき、この波がアメリカにも入っていった時期です。
産業革命とは、みなさんご存知の通り「それまで手作りでなんでもつくっていたのを、機械を導入することで大量生産ができるようになった」という流れです。
サックスは
- 1920年代を頂点に「あらゆる技術を投入・どれだけ手が込んでいるか」
- そして次第に「どれだけコストを抑えて効率の良い仕組みを取り入れられるか」
に変わっていきます。
【進化の過程のキィシステム】アドルフ・サックスが発明したサックスは「未完成」状態?
アドルフ・サックス(フランス)によってサックスが発明された1846年当初は、管体の形こそ今のサックスとほぼ同じですが、
そのキィアクションはクラリネットやフルートに近く、現代のサックスのように操作しやすいものではありませんでした。
例えば、オクターブ・キィが2つのもの、3つの物があったり
曲の調によって同じ音でも運指を変えなければいけなかったり、メーカーによってかなりトーンホールの位置やキィの仕組みが違っていたり、などなど。
↑こちらは1870年製のアドルフ・サックスです。この個体もオクターブ・キィが2つでテーブル・キィがありません。ですが、意外に大きい音が出るのが驚きでした。
【番外編:サックスの最初のライバル出現!〜サリューソフォーン〜(フランス)
アドルフ・サックスがサキソフォンを特許登録した1846年の10年後、同じくフランスでピエール=ルイ・ゴートロ/Pierre-Louis Gautrotという人物がサックスに似た楽器「サリューソフォン/Sarrusophone」の特許を取得します。(1856年)この楽器は、見た目はサックスの派生形のようですが、ファゴットなどと同じようにダブル・リード楽器です。現在クラシックで一部使われているのみですが、当時はアドルフ・サックスと「新世代管楽器」の座を激しく争っていました。
発明者のゴートロ氏は、その約30年後にサックス・メーカー「ケノン/CUESNON」社の取締役となります。
ちなみにこの時期のアドルフ・サックスは、サキソフォンの特許を無効にしようとする人々によって長い法廷闘争に巻き込まれていました。このことでアドルフ・サックスは破産寸前まで追い詰められました。
【出典:「アドルフ・サックス」・「サリューソフォーン
」wikipedia】
【進化の過程のキィシステム①】Millereau社よるアドルフ・サックス後 初のキィ・システム特許(フランス)
フランスのMillereau社というメーカーが、アドルフ・サックス発表後、初のキィ・システムに関する特許を1866年に取得します。
これは、現代のサックスのキィとはかなり違っています。
【現代とはかなり違うMillereauのキィ・システム】
↑Millereauテナーサックス。オクターブのしくみが現代と違いますね。サイド・キィ類もまだありません。
特許を取ったMillereauが新しかったのは、棒状のF#キィを追加したことでした。これは現代サックスには残っていませんね。画像のMillereauサックスを見ていただくとわかるとおり、当時のサックスには右手まわりのサイドキィやテーブル・キィといった発想がまだありませんでした。これは当時のアドルフ・サックスも同じです。
Millereauサックスはその後セルマーに買収されます。
【進化の過程のキィシステム②】サックス運指の最初の革命「Evette&scheffer/イベット&シェーファー」(フランス)
キィ・システム発展途上の初期段階で、フロントFキィのアイデアなどを発明したのが「Evette&scheffer/イベット&シェーファー」です。
「イベット&シェーファー」が現代サックスに通じる基本的なキィ・アクションについての特許をとります。
そして、この「イベット&シェーファー」を「ビッフェ・クランポン」が1877年に買収し、この特許はクランポン社のものになります。(参考:「Buffet Crampon」wiki)
【クランポンのモデル名になったEvette & scheffer/イベット & シェーファー】
クラリネットをお持ちの方は「evette&scheffer」の名前に馴染みがあると思います。
このイベット&シェーファーは、特にクラリネットとサックスでクランポンの廉価モデル(価格の安いモデル)としてそのブランド名を残します。
【進化の過程のキィシステム③】ケノンによる「キィシステム」の特許(フランス)
イベット&シェーファーのシステムの後、1888年にはフランスの管楽器メーカー「ケノン」が、これまたフランスの管楽器メーカー「ドルネイ&ピギス」との合併事業でサックスに関するキィシステムの特許を取ります。
ケノン/COUESNONとドルネイ&ヒギス/Dolnet & Pigisによるキィシステムの特許内容
- G#キィを閉じるためにFとF#キィが連動する仕組み
- 最低音B♭を鳴らすために単独でB♭キィ配置と動く仕組み
- 右手小指で操作するD#(レ#)の位置と仕組み(それまで右手小指で操作するレ#キィはなかった。)
- G#トリル・キィ(現代のサックスでは廃止)
- 高音のFまでサックス・キィの範囲を拡げた。
ケノン以降は各メーカーとも「右手のキィ配置をどうするか」の試行錯誤にフォーカスしていきます。
【”ケノン/CUESNON Monopole”と”ドルネイ/Dolnet Belair”】(フランス)
↑「CUESNON Monopole SeriesII」アルト・サックス。
↑「DOLNET BEL AIR」テナー・サックス。
ケノンとドルネイのサックスは日本ではほぼ見かけることがないので、その存在を知らない方がほとんどだと思いますが、どちらのモデルもその個性的なデザインで一部のマニアの間では人気です。当時のアール・デコを意識したようなキィ・ガードが最大の特徴で、ドルネイはコーンのような「マイクロ・チューニング」を装備したモデルも存在します。
ケノンで最も有名なモデルは「Monopole」というモデルでseries1とseries2があります。(1937~1980)
ドルネイでは「Bel air」(1950〜1970)が一番有名です。このベル・エアは支柱やキィガード、サイド・キィに至るまで「カクカク」なデザインで統一されています。そしてネックは「ダブル・ソケット」と「マイクロ・チューニング」そして「ロールド・トーンホール」を備えていて、C,G,Connの6Mのようです。(1950~1970)
【画像の出典:ケノンDOCTOR SAX WOODWINDS・ドルネイMRO SAXOPHONES】
【進化の過程のキィシステム④】RAMPONE & CAZZANI/ランポーネと「The Sistema Brevettato Delle Pia Saxophone」(イタリア)
アドルフ・サックスがサックスを作り始めた1850年代、お隣のイタリアでもランポーネ/RAMPONE & CAZZANIというメーカーがサックスを作り始めます。このランポーネがイタリアで初めてサックスを製造したメーカーだと言われています。
【右手パーム・キィに特化した「The Sistema Brevettato Delle Piane Saxophone」】
↑右手のパーム・キィ類を見てください。たくさんのボタンが配置されています。このボタンもカスタマイズ可能だったようです。
<画像元:GalpinSociety Journal©2006 Galpin Society Request Permissions>
このランポーネでは、右手のパームキィでコンパクトに操作ができるような、今では不思議なキィシステムのサックスも造られました。
このサックスは自分の良く使うキィに合わせて配置するボタンをカスタマイズすることができるようになっています。
これはより演奏しやすくするシステムでしたが、コストがかかりすぎるので、その後の「大量生産」の流れに合わないものとして消えていきました。
【画像の出典:The Sistema Brevettato Delle Piane Saxophone/
Emanuele Raganato/
The Galpin Society Journal】
【進化の過程のキィシステム⑤】ビュフェ・クランポン「APOGEE/アポジー」(フランス)
1910年にビッフェ・クランポンはこのイベット&シェーファーのキィシステムの特許から「APOGEE/アポジー」(1910〜1930頃)というモデルを発表しました。今このキィ・システムを見るとかなり奇妙ですが、当時はグレードの高い「特別仕様モデル」にこのキィシステムが採用されました。
いまではほとんどサックス・メーカーのイメージがないクランポンですが、この頃の取り組みを見てみると、当時クランポンはサックス・メーカーとしてヨーロッパで最大かつ最先端のブランドだったことがわかると思います。
【画像の出典:saxophone.pagesperso-orange.fr】
【進化の過程のキィシステム⑥】C,G,Connが「ロールド・トーンホール」の特許でサックス製造(アメリカ)
↑C,G,Connの1号モデル”Worcester”テナー・サックス 【画像の出典:Saxophone.org】
ヨーロッパでクランポン全盛だった同じ頃に、アメリカでは1888年にC.G.Connがサックス製造を始めます。
そして1917年に「ロールド・トーンホール」製法を取り入れます。(Connはその前からすでに他の木管・金管楽器を製造していました。)これは1914年にW.S. Haynes氏によって特許が取られた製法です。これによってそれまでのハンダ付けによるトーンホール加工の工程が大幅に短縮されました。
その後、C.G.Connからはビッシャー/Beascher、マーティン/MARTIN,オールズ/OLDS※など当時のアメリカン・サックスの代名詞になるブランドの創始者が次々に輩出されました。
【参照:“C,G,Conn“wikipedia 】
OLDSのサックス(アメリカ)
OLDSは正確には金管楽器の製造でConnから独立し、後にステューデント・モデルのラインナップとしてサックスも販売するようになりました。サックスは自社製ではなくpierretというメーカーのOEMです。OLDは現在も存続しています。【参照:“F.E.OLDS”ホームページ】
↑PierretのSuper Artiste by Erzsébet Krisztina Pocsaji
【Pierret/ピエレット サックス(フランス)】
ちなみにpierretは1906年から1972年くらいまでサックスを製造していたフランスのサックス専門メーカーです。ステューデント・モデルのような廉価サックスはつくらず、品質にこだわったメーカーでした。こちらの動画にある「Super Artiste」(1950年代)というモデルが代表的な機種で、「マイクロ・チューニング・デバイス」を装備しています。
【参考:saxpics.com】
【進化の過程のキィシステム⑦】ビュフェ・クランポン「ビュフェ・パウェル」で音域の可能性を模索(フランス)
↑buffet-powellのネック。なんとオクターブ機構が2つあります!
また、クランポンは1930〜1939年サックスの音域を広げる試みとして「ビュッフェ・パウェル/buffet-powel」というモデルを作ります。
このモデルはなんと4オクターブの音域を持っているサックスでした。試作機ではなく9年間造られていたのもすごいですね。
今ではサックスの音域が当たり前のように決まっていますが、この当時はまだ「サックスにどこまでの音域を設定するのが適当か」が確立していませんでした。
【画像の出典:Saxophone.org】
1900年代以降のドイツ・チェコスロヴァキアのサックスの流れ
こういった各メーカーの開発に加えて、クラシックの有名な奏者が徐々にサックスを使った演奏を世にだすようになります。
こうして次第にプロフェショナル用の木管楽器として地位がたかまるにつれ、ドイツ〜チェコでいろいろなメーカーがサックスを製造するようになりました。
ドイツの老舗「アドラー/Oscar Adler」社がドイツでサックス製造を始める
↑オスカー・アドラーのカーブド・ソプラノ・サックス。<画像元:”GET・A・SAX”>
1901年頃に「オスカー・アドラー」社がサックスを作り始めます。これがドイツで最初のサックスと言われています。(会社自体は1885年に創業)アドラー社は現在ファゴットのメーカーとして残っていて、サックスは造っていません。
アドラー社にはしばらくカイルベルト兄弟(ユリウス・カイルベルトとマックス・カイルベルト)がサックス製造に協力していましたが、彼らが関わることがなくなると次第にサックス製造部門は衰退していきました。
1901年 ドイツ〜チェコ圏のコーラート社がサックスを作り始める
↑コーラートのテナー・サックス。
1900年くらいからズデーデン地方・グラスリッツ(チェコスロバキア)で創業された(創業1840年)「コーラート/V. F. Kohlert& Sons」社がサックスの製造を始めます。
その後の第二次世界大戦の影響でドイツが東西に分断された事などからブランド力は消えてしまいますが、当時のドイツ最大メーカー「アドラー」社をおさえてドイツを代表する大手総合楽器メーカーになるほどの規模でした。
ちなみにH.N.ホワイト(のちのKING)も自社でサックスを製造するようになる前の、1910年あたりからコーラートにステンシル・モデルを発注していました。
【ヨーロッパ楽器の中心地「ズデーテン地方」】
当時のドイツ・メーカーは旧チェコスロバキア・ズデーテン地方の都市 グラスリッツに楽器工房を構えているケースがほとんどでした。(これは下記のカイルベルトも同じです。)
このズデーテン地方は、サックスに限らずいろいろな楽器製造の中心地でした。(金管・弦楽器・アコーディオンなど)
ですが、第二次大戦後、ここに住んでいたドイツ人はチェコより強制退去されてしまうことになります。
こうして、ズデーテン地方で培われた楽器製造がイギリスなどにも広がることになります。(のちのBoosey & Hawkesなど)【画像元:Copyright© Y-History 教材工房”世界史の窓”】
1925年ユリウス・カイルベルト創業 初期のカイルベルト社は色々なメーカーに管体を提供
↑カイルベルトの「ToneKing」。ToneKingはいろいろなバージョンがありますが、こちらはメタル・カバーが珍しい1957年のバージョンで、通称”Engel Wing”。プラスチック・カバーの個体もあります。【画像元:SAXIMUS MAXIMUS】
1925年には「コーラート/V. F. Kohlert& Sons」で修行した「ユリウス・カイルベルト/Julius Keilwerth」がサックス・メーカを立ち上げます。(第二次大戦後は金管楽器も製造します。)
ユリウス・カイルベルトとマックス・カイルベルト
ユリウス・カイルベルトの弟、「マックス・カイルベルト/MAX Keilwerth」もサックスを造りました。MAX Keilwerthはカイルベルト一家から独立して「Oskar Adler/オスカー・アドラー」や「F.X. Hüller/ヒューラー」そして創立初期の「Amati/アマティ」などでサックスを製造していたので、ユリウス・カイルベルトとマックス・カイルベルトは全く別のサックスです。「MAX Keilwerth」ブランドというのは創立されませんでしたが、マックスは自分の工房を持っていました。マックス・カイルベルト が携わっていた時期の(いろいろなメーカーの)ドイツ製「ステンシル」サックスには彼のサインともいえるスタンプが刻印されており、マニアの間ではこのスタンプが入っている管体は高く評価されています。
この頃のカイルベルトは、いろいろなメーカーに管体とその製法を提供していました。(特にステューデント・クラスの管体)そのため、当時のドイツ語圏のサックスは、メーカーを超えてカイルベルトの影響が残っています。
また、アメリカ・メーカーのステンシルも受注していました。
「H.N.ホワイト」時代のキング/KINGも自社でサックスを製造する前に(Kohlert/コーラートに発注したのと同じく)カイルベルトにもステンシルを発注していました。時代はずっと後になりますがセルマーU.S.Aのステューデント・モデル「バンディ/BANDY」も、初期はカイルベルト製のステンシルです。(後期は台湾・中国製。)
1920年代のC,G,Connサックスは芸術的に絶頂期を迎えます
↑彫刻がほどこされたC,G,ConnのNEW WONDERⅡ。ネックがヘビになっているのがすごいです!【画像元:MAAS Collection – Museum of Applied Arts and Sciences】
1920年代に入ってからConnは芸術品の域に達するような個体を生み出し、絶頂期を迎えます。
これに最も貢献したのがSteinberg兄弟(Charles SteinbergとJulius Stenberg)という彫刻師です。
↑Cm,G,ConnのVirtuoso Deluxeソプラノ・サックス。フル・パールのキィやゴールド・ラッカー、そして今では考えられない手の混んだ彫刻が特徴です。byStohrer Music
彼らの特別彫刻によって生まれたコーンの「バーチュオーソ・デラックス/Virtuoso Deluxe」というモデルは、当時のモデル「new wonderII」に、今では考えられないような精巧な彫刻を施した特注モデルでした。
コーンでこういったモデルが造られた背景には、1920年代、アメリカでジャズが爆発的ブームになったことがあげられます。当時のアメリカ・ジャズについては、以下の記事を参考にしてください。
そして…セルマー登場。→「バランスド・アクション」まで
↑左が当時のクランポンのロゴ。右は1922年当時のセルマーのロゴ。「ここまでパクって良いの?」というくらい似ています。先にこのロゴを使用していたのはもちろんクランポンなので、当時のセルマーがいかにクランポンを意識していたかが分かります。セルマーのこのロゴはmodele26以降、現在のロゴデザインに変更されました。
こうした中、1922年にセルマーは第一号モデルの「molede22」を世に出しました。
セルマーは、次の「モデル26」で大幅なボアの変更やキィ配列の変更を導入しますが、
基本的なキィ配列はクランポンが特許を押さえていた為、不要なトリル・キィを付けたりしてこの時代のセルマーはまだ「他社の特許にかぶらないように、というモデルチェンジ」の色が強く、音質・操作性ともにまだクランポンのサックスの方が上、という時代でした。
アメリカ、フランスのメーカーはキィ配置がほぼ現代サックスのものになってきていましたが、
ヨーロッパのマイナー・メーカーは「APOGEE」タイプのキィ配列を採用していたり、ドルネイなども独自の機構を採用していたり…とまちまちでした。
セルマー・サックスのオクターブ機構の開発
1900年初期のヨーロッパ管楽器業界で遅れてきたサックス・メーカーだったセルマーですが、クラリネットですでに賞を取るほどの技術力があり、(1902年開催のセントルイス万国博覧会でセルマーのクラリネットが金賞を受賞しました。)4代目のモデル「シガー・カッター」モデルから急速に進化します。
このセルマー・シガー・カッターからラジオ・インプルーヴドと呼ばれるモデルまで(1930〜1935)は
「オクターブ機構」の改良がそのままモデル・チェンジにつながっています。
はじめて低音部のトーンホールを右側にそろえたモデル「バランスド・アクション」
↑セルマー「バランスドアクション」アルトサックス
「ラジオ・インプルーブド」の後継モデルとしてセルマーはついに「バランスド・アクション」モデルを発表します。
セルマー・バランスド・アクションが革新的だった点は以下のとおりです。
- ベル部分の低音トーンホールが全て右側に配置された。
- 演奏するときに体に触れる左側から、複雑な機構・可動部が取り除かれて演奏時のトラブルが劇的に解消された。
- ベル支柱をリングの形にしたことで、ベルの耐久力と響きが向上。
- 配置変えによる大幅なキィシステム変更で各音の均一性と操作性が安定した。
現代のサックスでは当たり前になっていて、どのメーカーも採用していることばかりですが、こういった現代サックスの特徴が全て「セルマー・バランスド・アクション」によってはじめて統一されました。
まとめ
いかがでしたか?!
日本にほとんど入ってこないサックス達なので、はじめて知った!というモデル、ブランドも多かったのではないでしょうか。
また、1920年くらいまではクランポンがサックス界を引っ張っていたこととか、カイルベルトの管体が、いろいろなメーカーに浸透していたこととか…こういったことも知っていると、ネットで旧いサックスをみるのが数倍たのしくなります。
今回はアドルフ・サックス誕生の1846年から1936年のバランスド・アクションまでに登場するブランドに絞りましたが、1936年以降にもまだまだ紹介しきれない、そして日本では知られていないブランドがたくさんあります。
それらはまた別の機会に紹介したいと思います。
こんな感じで(長くなりましたが)ヨーロッパのサックスには、いまではみることのない変わったサックスが数多く存在します。 この記事をガイドに、ぜひこの時代のサックスたちをebayなどでチェックしてみてください!
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