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歴代セルマー・サックス解説!【中編】〜セルマーのマニアックなモデル〜

投稿日:2020年9月22日 更新日:

歴代セルマー解説!セルマーの過去モデルを第一号モデルから非公式モデル、そしてジュビリー前まで解説します②

それでは前回の予告通り、まず「セルマー公式年表に掲載されていないセルマー」について解説します。

※前回の記事はこちら!

歴代セルマー・サックス解説!【前編】

幸い、私の近くにいらっしゃる方、そして当店にも貴重な個体が揃っているので、それらを実際に検証した結果、国内ではあまり語られていない事実なんかもありますので、ぜひ最後まで読んでください。
ただ、そういった検証も載せているとかなり長くなってしまうので、
「年代順の歴代モデル紹介」は、後編として記事を分けさせていただきます。(すみません…)

セルマーの公式サイトに掲載されていないモデルの解説

それでは、国内の情報だけではあまり知ることのない、(一部のマニアの方だけがご存知のような)「セルマー未公式」のモデル紹介です。

  • 「公式第一号モデル」以前のモデル
  • 「ラージ・ボア/Large Bore」と「ニュー・ラージ・ボア/New Large Bore」
  • S.S.S(スーパー・シリーズ)
  • ジミー・ドーシー・モデル
  • パッドレス・サックス

これらを順に解説していきます。

公式「第一号モデル」以前のモデル

「ステンシル・サックス」だった時代

セルマーの公式サイトでは「シリアル・ナンバー750」の個体が第1号モデルとなっていますが、それ以前のシリアル・ナンバーの個体も現存しています。これらは「ステンシル」モデルと言って、「セルマーのロゴが入っているけど、製造は別会社」というモデルです。
まだセルマー自社製ではなく、アドルフ・サックスの息子(アドルフ・サックス製造のサックスには父”ファーザー”モデルと息子”サン/またはジュニア”モデルがあります)の工場で製造されたようです。これは1901年頃から製造されたようです。

「ゴールド・メダル」モデル と呼ばれる個体

1910年頃から750番(1922年)手前までの個体には「ゴールド・メダル/Gold Medal」と彫られた管体が存在します。

これもそれ以前のモデルと同じく、「アドルフ ”サン/息子” サックス」の工場で製造されたものでした。

ちなみに「ゴールド・モデル/GoldModal」という名は管体に彫られているもので、セルマーが1900年当時にパリ万国博覧会においてクラリネットの製造で金賞を受賞した事にちなんでいます。

公式第一号モデル “シリアル・ナンバー750”

セルマーの公式サイト年表やネット上にあるセルマーのシリアル・ナンバー表を見るとお分かりの通り、セルマーのサックスは「750番」が最初の1本目、ということになっています。

この「世界で1本しかない」シリアル・ナンバー750番、実は「サックス買取ラボふくおか」で取り扱っているので(!)こちらの動画をご覧ください。

動画を見ていただくとお分かりの通りこの「750番」は、みなさんがセルマー第1号モデルと認識している「モデル22/modele22」とは、かなりデザイン・造りが違います。 一番大きな違いは「オクターブ・キィが2つある」事です。指貝もなく、以前の記事でご紹介した「初期のアドルフ・サックス(ファーザー)」そっくりです。

また、この頃のセルマーのロゴはクランポンそっくりです。modele26までしばらくこのロゴマークが続きますが、やはり当時もクランポンそっくりなロゴにクレームが出たらしく、モデル26/modele26から現在のセルマー・ロゴに変更されています。

このことからもやはり、当時は「ビュフェ・クランポン」がセルマーから見て既に「サックス大手メーカー」だったことがうかがえます。

【シリアル・ナンバー769〜modele22までの過渡期〜】

そしてこちらが750番より少し後の個体「シリアル・ナンバー769」です。こちらは「アトリエ・パンパイプ」さん所蔵の個体です。

この個体を見ると、オクターブ機構・キィレイアウトが(750番より)格段に進化しています。指貝もついていて、テーブル・キィもちゃんと確立しています。

ただベル部の刻印が「serie1922」となっていて、まだmodele22と刻印されていません。
それにしても750番と比べて19番しか違わないのに、とてつもない進化です。

これもおそらく、当時クランポンやC,G,Connなど色々なサックスが出ていたので、
それらをかなり参考にしたんだろうな、ということがわかります。
そうでないと、これだけ急激な進化はできないでしょう。

セルマーがサックスを世に出したばかりの頃、他のサックス・メーカーがどれだけ進んでいたか…については、以下の記事を参考にしてください。

セルマー以前のサックス〜1936年までのセルマーはクランポンより「格下」だった!

そしてようやく「modele22」刻印モデル

こうしてようやく「modele22」刻印の個体が登場します。(シリアル・ナンバーでは1400番から)

modele22はその名の通り、ベル部に「modele22」と刻印されています(”modele”は”model”のフランス語)。ここまでのモデルを見ると、以下の事実がわかります。

  • シリアル・ナンバー750からmodele22刻印モデルまでの個体は1本1本違っていて、試行錯誤していた様子が見られる。
  • 当時のセルマーのロゴがmodele26以降「クランポンに似すぎている」という理由でデザイン変更されている。

こう言った事実を見ると、この時期のセルマーは以下のような事情が推察されます。

シガー・カッターができるまでのセルマー・サックスは、楽器製造の確かな技術は持っていたが、
すでに(当時の)大手メーカー「クランポン」などにサックスの要となる部分の特許を押さえられていたために、その特許に引っかかって訴えられないよう苦労しながら、(そのせいで退化している箇所もある)、大手の「マネ」をしながらサックスを作り上げている時期だった。

「モデル26/modele26」と「モデル28/modele28」そして「ニュー・ラージ・ボア/New Large Bore」

その後、公式ページの年表にもあるように、

  • 「モデル22/modele22」(こうして実際の当時モデルを見てわかる通り、1922年=すべてmodele22というわけではありません)
  • 1926年に 「モデル26/modele26」
  • 1928年に 「モデル28/modele28」

とモデル・チェンジしていきますが、モデル28/modele28は以下のような特徴があります。

modele28(期)の特徴
  • 前期モデルと後期モデルでキィ・パーツの数やレイアウトが違います。
  • 「modele28」の刻印があるのは前期のわずかなモデルだけです。
  • 「modele28」刻印のない後期モデル(しかも、その後の”シガー・カッター”と明らかに違う個体)は「ニュー・ラージ・ボア/new large bore」と呼ばれます。

2018年頃までは、「modele28」はセルマーの公式サイト上の年表に記載されていませんでした。

これは、「modele28」と刻印されている個体がかなり少ないためです。

「modele28」後期個体が「ニュー・ラージ・ボア/New Large Bore」と呼ばれる理由は、
「modele26」が発売当時「ラージ・ボア/Large Bore」と名付けられていたことから由来しています。

これは、「modele22よりもボア(管体の口径)が大きくなった」という意味です。

New Large Bore/ニュー・ラージ・ボア

この「ニュー・ラージ・ボア」という呼び名は日本ではあまり馴染みがありませんが、
ちょうど1928年製造モデルから1931年頃製造モデルまで(modele28後期からciger cutter黎明期まで)を、海外では「ニュー・ラージ・ボア」と呼ぶことが多いようです。
これは、以下の理由があります。

  • 1930年頃から見られる「シガー・カッター/ciger cutter」モデルは、もともと正式なモデル名ではなく、オクターブ機構の独特な形から付けられた「愛称」です。なので本体にも「ciger cutter」と刻印されているわけではありません。
  • 海外サイトの情報によると、上記した「特許侵害のクレーム回避」が理由の1つのようですが「modele28」刻印モデルから「ラジオ・インプルーヴド/Radio Improved」まではモデル名が刻印されておらず、この間キィのレイアウトを試行錯誤している個体が多く見られます。

日本では、「シガー・カッターのようなオクターブ・パーツ」が見られるようになった個体から「シガー・カッター」と呼び、その「シガー・カッター」と外観は全く一緒で、このオクターブ・パーツがなくなる「シガー・カッター後期モデル」を「ノン・シガー・カッター」と呼ぶ分類方法が主流です。

海外のサックス情報サイト「saxophone.org」のちょうどmodele28後期からciger cutterが現れる1929年、1930年の「境目」に製造された個体の画像を見ると、例えば”シリアル・ナンバー10201”のアルト・サックスなどは、オクターブ機構はmodele26〜28のままでキィ・ガードが完全にシガー・カッターと同じものになっているのが分かります。

ですが、それより後のモデルに当たる当店取り扱いの”シリアル・ナンバー10684”個体になると、またmodele26のようなキィガードに戻っています。

このことから、1929年頃から1930年頃のセルマーは、ちょうど「シリアル・ナンバー750からmodele22刻印個体まで」のように、かなり試行錯誤していたのことが分かります。

つまり、この頃のセルマー(1922年〜1933年位まで)は、「試行錯誤の結果、前モデルと違う形状になった」という感覚で、計画的にモデル・チェンジが行われていたわけではなく、後付けでモデル名が付けられ、分類されているという時期なのです。

SSS(セルマー・スーパー・シリーズ)

SSS(スーパー・シリーズ)〜オクターブ機構の試行錯誤〜

「ニュー・ラージ・ボア」と同じように、日本では馴染みのない呼び方で「スーパー・シリーズ」というものがあります。

これは、ちょうどシガー・カッター(にあたるモデル)から「ラジオ・インプルーヴド」モデルまでに刻印されている「SSS」から来ている呼び方です。

この「SSS」は「セルマー・スーパー・シリーズ」の略で、この時期のモデルにしかこの刻印はありません。

このことから、海外では以下のような分類・名称も一般的です。

1931年から1935年までのセルマー・サックス”SSS/スーパー・シリーズ”
  • シガー・カッター(シガー・カッターに見えるオクターブ機構がある個体のみ)
  • スーパー/Super(ノン・シガー・カッターのこと。”シガー・カッター”がなくなって”radio improved”刻印がされるまでの個体)
  • ラジオ・インプルーヴド(ベル部に”radio improved”と刻印されてるもの)

また、この「SSS」が刻印された時期のモデルには

・オクターブ機構の造り以外はほぼ同じ外観

という特徴があります。

つまり、この時期の

「シガー・カッター」「ノン・シガー・カッター」「ラジオ・インプルーヴド」はオクターブ機構の試行錯誤の時期

と言えます。

ジミー・ドーシー・モデル/Jimmy Dorsey Model

ジミー・ドーシー・モデルは「バランスド・アクション」を「シガー・カッターやラジオ・インプルーヴド」のように改造した個体です。

他のサイトでも情報があるように、当時サックス・プレイヤーとして有名だったアメリカのミュージシャン「ジミー・ドーシー」が、まだバランスド・アクションの「ベル右側のトーンホール・レイアウト」に馴染めず、バランスド・アクションをラジオ・インプルーヴドのテーブル・キィ周りを合体させることで「昔ながらの」左仕様にダウングレードした、というモデルです。

これは海外のサックス・コレクターのサイトなどでもセルマー公式モデルとしてシリアル・ナンバーの範囲も合わせて掲載されていますが、私は個人的に「メーカーが公式モデルとしてこんな合体モデルを出すかな?」と思って疑っています。

ですが私が手に入る3つの「ドーシー・モデル」の個体を見比べると、以下のことが分かります。

  • ドーシー・モデルはベル部にシリアル・ナンバーが刻印されている個体が多く、modele28までのようなフォント/字体でシリアル・ナンバーも刻印されているのですが、番号的にはちゃんとバランスド・アクション期のものです。(つまり、ただの旧モデル部品の流用ではなく、後からシリアル・ナンバーを刻印してある。これはおそらく他の業者ではできない。)
  • 管体とベル部の両方にシリアル・ナンバーが刻印されている個体が存在します。(ちなみにこちらの個体(24xxx番台)は管体とベル部のナンバーが違います。→部品の寄せ集め的なつくりかた)
  • 私のところで現物を確認できる3体(285xx番台、286xx番台、24xxx番台)は共通してベル部に「SSS」の刻印があります。”radio improved/ラジオ・インプルーヴド”の刻印はありません。つまりこのことからシガー・カッターのベル部品を流用していることが分かります。
  • キィ・ガードの形状に2タイプあります。1つはバランスド・アクション型のキィ・カバーにラジオ・インプルーヴド型のワイヤー・フレームという合体デザインです。(ちなみにジミー・ドーシー本人が写真で手にしているのは、こちらのタイプです。)もう1タイプは、シガー・カッターと同じ完全なワイヤー・フレームです。前者を”ドーシー2″と呼ぶことが多いです。

こう言った事実を見ると、やはりセルマー社でないとこの加工は無理な気もします。

ジミー・ドーシーがこの「特別仕様モデル」を使用していたことは事実で、ドーシー・モデルを手にするジミー・ドーシーの写真も残っています。

ただ、管体とベル部が明らかに別の個体から持ってきたような仕上げの個体が残っているを見ると、
数本の「特注モデル」としてドーシー・モデルが正式に存在していて、後年それを真似て「職人の工房レベルで改造したような個体」というのも市場に出ているのではないか…

という気がします。(あくまで個人的な意見です)

パッドレス・サックス

パッドレス・サックスは、正確にはセルマーに依頼された「SelmerU.S」による製造で、Beascherの技術が投入されています。

実際に吹いて見ると、音色はマーク6初期のようで温かく素晴らしく、外観もアメセル色のラッカーとS.B.A期のような凝った彫刻でパッドさえ交換できればぜひ所有したいと思わせる個体です。

現代においてはこの「リング状のゴム素材が交換できない」というのが最大のネックです。
個人的にもいろいろ調べてみましたが、今のところこれを交換できるリペア職人さんには出会えていません。

ebayではたまにこのリング状のゴム素材だけが出品されていることもあるので、
それを手に入れれば交換・調整できるかもしれません。

【おまけ:LOW-AモデルMark6】

試行錯誤の過程として生まれたモデルで、「Low-Aサックス」というのがあります。

時代がいきなり飛ぶのですが、これはMark6期(1960年代後半)に試みられたモデルで、バリトン・サックスのようにサムレストを挟んでオクターブ・キィの真下に「最低音の下のLow-A」キィがついています。

これはいくつかのタイプが製造されていて、
High F#キィがついたバージョンとついていないバージョンが存在します。

Low-A マーク6 フラセル

↑Low-Aマーク6はフラセル・バージョンも存在します。(21万番台”Low-A”マーク6)

ちなみに、このLow-Aアルト・サックスは当時ヤナギサワでも試作まですすめられたようです。

ヤナギサワ Low-A A4 altosax

↑ヤナギサワ “Low-A” A-4モデル アルトサックス(画像元:ゼルメルさんのブログ「SAXess!サックス吹こうよ!」)

 

まとめ

以上でセルマーの「未公式」モデルについては終わりです。
次回の「後編」ではこれらを含めた全セルマーモデルを、アルト・サックスを基準にご紹介します。

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