セルマーのサックスは、モデル名とあわせて製造年も大事です
各モデルの違いを知ることは自分のサックスを選ぶ上で大切なことですが、実は同じモデルでも製造時期でさらに細かい違いがあることは、あまり知られていません。
この事は、セルマーのビンテージ…特にマーク6を追いかける方々には常識になっている事実ですが、実はこの傾向は現行機種でも変わっていない、というのは
意外ですが事実です。
「セルマーのジュビリー・モデルとその前のモデルの事でしょ?知ってるよ。」という方は多いと思いますが、それよりも細かく、それこそマーク6の時代と少しも変わることなく、頻繁にアナウンスされていないマイナー・チェンジや部品の変更が行われているのです。
※マイナー・チェンジ情報は、ヤマハやヤナギサワなどは公にアナウンスされますが、セルマーは公表されている情報と公表されていない情報がある事、そして他メーカーより公表しないマイナー・チェンジを頻繁に行なう事から、今回はセルマーのサックスに絞って話を進めたいと思います。
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中古サックスの選び方。初心者にもオススメ!新品にはない魅力
シリアル・ナンバーごとに個体の特色が違うのは、マーク6だけではありません
例えばセルマーの「スーパーアクション80シリーズ2」という現行モデルを取り上げてみると、80年代にシリーズ2が登場したての頃~シリアル・ナンバーでいうと40万番台から始まる「初期モデル」と、2010年を境に公にアナウンスされた最大のマイナー・チェンジ「ジュビリー」で大きく2期に分けられ、外観も音の特長もその前後で大きく変化しています。
ここまではサックスをある程度知っている方ならご存じだと思いますが、さらに「ジュビリー前のモデル」を細かく比較してみると
大まかに3期に分けられる程、ちょこちょこと部分的な変更を重ねていて、その事で音や操作性の特長も微妙に違います。そしてこの微妙な変更に関しては、メーカーからは何も公表されていません。ですので実際に実機を並べて比べた人しか知らない事実なのです。
ここがサックス選びのやっかいな所でもあり、また奥深く面白い所でもあります。
サックスに施されるマイナー・チェンジは、あまり話題にされません。これは電化製品のように『モデル名』だけが完成された1つの製品を現し、その製品に改良などの変更が加えられるとまた『別のモデル』としてリリースされる、というのが現代では常識、という事からきているのだと思います。
私もたくさんのサックスを扱うようになるまでは、この事は知りませんでした。
もちろん、マーク6以前のサックスが旧モデルと新モデルの移行時期に造られた個体はあいまいで、例えばバランスド・アクションとスーパー・バランスド・アクションが合体したようなモデルが存在したりする、という事は知っていましたが、これは昔の話だと思っていました。
それがたくさんのシリーズ3やリファレンスやSA80シリーズ2を扱うようになると、現行モデルでも同じ機種なのに微妙に部品の形状などが違う個体が存在する事に気が付いたのです。
セルマー現行機種のマイナー・チェンジ検証を紹介
以下の過去記事はセルマー・サックスの現行3モデル「SA80シリーズ2」「シリーズ3」「リファレンス」のマイナー・チェンジについて検証した記事です。ぜひ参考にしてください。
セルマー・SA80 シリーズ2のマイナー・チェンジの違い
セルマーのアルトサックスシリーズ2の製造年での違い【jubileeとjubilee前モデル】
セルマー・シリーズ3のマイナー・チェンジの違い
セルマー サックス serie3/シリーズ3は製造年で違いがある!~前期・後期の見分け方
セルマー・リファレンスのマイナー・チェンジの違い
Selmer Sax Reference36 セルマーのサックス・リファレンス36は2モデル存在するのを知っていますか?
こうして、現行機種の3モデルを検証してみた結果、セルマーのサックスはどうやら現代でもマーク6までの時代と変わらず現行機種にちょこちょこと改良(改悪の場合も多いですが…)を加えて、市場の反応を見ながら次期新モデル開発へとつなげているらしい…という事が分かってきました。
なぜモデル・チェンジだけでなくマイナー・チェンジが行われるの?
どうして部分的にちょこちょこと変更をするのか??これには2つの理由が考えられます。
理由①吹きやすさと音の響きの追求
サックスを気持ちよく演奏するには、音が出れば良い、というだけではなくていくつかの要素が必要です。 d
サックスを気持ちよく吹くための要素
- 要素①吹きやすさ…やっぱりラクに吹ければ吹けるほど吹くのは楽しくなりますよね。
- 要素②音の説得力…人の声に近い音色、これがサックスなど管楽器の魅力ですよね。人の声と同じで、『説得力のある声』には、太い声、低い声、綺麗な声、などなど…いろいろな要素の組み合わせです。
- 要素③…音の正確さ…人の声のよう音が魅力であるサックスですから、電子楽器のように正確な音程を出すのが必ずしも魅力的な音、という訳ではありません。でもオンチだと話にならないですよね。
こういった要素は、全てをマックスで備える事は不可能です。次の章であげているように、『魅力的な音で気持ちよく』吹けるための要素の中には、相反する要素もあるからです。上にあげた要素で言うと「音の正確さ」が良い例です。
例えば電子音のように、いつでも正確な音程しか出せない楽器にしてしまうと、サックスとしては「つまらない」楽器になってしまいますよね。ある程度のわずかな音程の揺れが必要なわけです。つまり、楽器の改良には常にそれぞれの要素同士の『バランス』の問題がつきまとうわけです。どれかを100にすれば打ち消されてしまう要素があるのです。そのために要素と要素を「70:30」にするのか「80:20」にするのか…といった事がマイナー・チェンジによって絶え間なく工夫されているのです。その結果、時には「前の方が良かった…」という改良…「改悪」になってしまう事もあります。
理由②コスト・ダウン
マイナー・チェンジには上記のように「改良」目的ばかりなら良いのですが、サックスのような楽器は企業が製造している以上、利益が出せるように「コストダウン」を要求される場合もあります。
具体的には、新型を開発・販売したが思ったより売り上げが伸びなかった…という時に最初に製造したものよりも安い部品に交換して生産を続けたり、目に見えない所を省略してみたり…という事があります。こういったパーツ変更はもちろん性能向上が目的ではないので注意が必要です。
マイナー・チェンジによる特性を知って、より自分に合ったサックスを選ぶ
以上のように、マイナー・チェンジは「よりサックスの機能を向上させよう」と試みた結果ですが、どう見てもコスト・ダウンの為に簡略化した結果だという場合もあるのです。また、改良点についても「軽い吹奏感」と「音の重厚さ」のように、相反する要素は基本的に共存できないので、どちらかに特化していればもう1方の要素が犠牲になっている…と考えるのが妥当です。
ここで参考に、一般的に『相反する』要素をあげておきます。
サックスの『相反する』要素
- 『吹奏感が軽い・吹きやすい』ということは…=『音が軽い・低音要素が少ない』
- 『音が遠くまで届く・良く響く』ということは…=『楽器が重くなる・息の抵抗が強くなる』
- 『音がパワフル』ということは…=『かすれた感じやかすれた音・繊細なが出しにくい』
- 『音がクリア』ということは…=『丸く温かい音が出しにくい』
※ここで大事なのは、どんなに最新モデルで高級なサックスでも、この相反する要素の両方を満たす事は出来ない、という事です。(バランスをとるしかありません。)
まとめ
全体が10だとすると、それが15や20になることはどんなに技術が進んでも、ない。
どこかの機能を1つ特化させると、代わりにどこかの要素が1つ犠牲になっている。
これは、私がお世話になっているリペアマンさんがよくおっしゃっている言葉です。
つまり、最新型が過去のモデルの全ての性能を盛り込めているのではなくて、例えば『吹きやすさ』に特化すればその分『音の深さ・厚さ』が犠牲になっている…といった事です。
サックスを選ぶ上でぜひ頭に置いておいてもらいたいのがこの点です。サックスに関しては(これは楽器全般に言えますが)最新モデルは万能ではなく、旧モデルは安いだけの中古品ではありません。そういった意味でも最新モデルだけでなく、ぜひ過去のサックスも検討してみるべきです。自分の好み・個性にあうものは現行モデルよりも過去のモデルだったりする事も、かなりの確率であります。
また、最近は海外の若手サックス・プレイヤーが、Mark6だけではなくセルマーの1930年代のモデル『Radio Improved』を使っていたり、Buescherの1940年代のモデルを使っていたり…といったいろいろな旧モデルを愛用するケースがみられるようになってきました。
これはネットの普及でたくさんの個体を世界中どこからでも探す事ができるようになった事も影響しているでしょうし、マイクやPA機器の進化で、楽器にパワーよりも音個性が求められるようになった事も大きいと思います。
そういったこれからの時代には、新品=良いサックスではないと思います。ぜひ新旧のサックスをいろいろ調べて、試して、絵筆を選ぶように自分の色や微妙なニュアンスにこだわってサックス選びをすると、もっともっとサックスが楽しくなりますよ^^
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