アメセルとフラセルって何??
まず結論から。
アメセルとフラセルの定義は以下のとおりです。
アメセルとフラセルの定義
- アメセルは「フランスで製造され、アメリカ国内で組み立て・検品された」セルマー製サックス。
- フラセルは、「アメセル以外の一般的な」セルマー製サックス。
- ビンテージ・セルマーには「アメセル」と「フラセル」どちらも存在する。
- 「アメセルらしい音色」というのが存在する。
ビンテージ・セルマーを詳しく解説
サックスの世界でよく聞く「アメセル」と「フラセル」。
今回はこのアメセルとフラセル、特に「どうしてアメセルは値段が高いのか??」
について解説しようと思います。
この記事を読むことで
- ビンテージ・サックス、特にビンテージ・セルマー事情が分かります。
- どういう方にビンテージ・セルマーが向いているか分かります。
パっと聞くと「アメセル」はアメリカ製造のセルマーで
「フラセル」はフランス製造のセルマーと思ってしまいますが、
そういう訳ではありません。
”アメセル”ってなんなのか?については
過去記事で詳しく書いています。
こちらの記事内の
「他社で製造したサックスを販売していた会社・セルマーUSA」
の章を参考にしてください。
アメセルがフラセルより好まれる理由
アメセルがフラセルよりももてはやされる理由は以下です。
アメセルがフラセルより人気な理由
- フラセルに比べ反応が早い・細かなニュアンスがつけやすい
- 「アメセル」な音を持っている(ザラっとした感じがありながらダークなツヤがある音・特に「マーク6」
のアメセルにこの特性が出ます。)
まず大前提として
細部までこまかく調整されたビンテージ・サックスでないと
ここにあげたメリットは感じられません。
また、ビンテージ・サックスの調整は、新旧のサックスを知り尽くしたリペア職人さんに調整してもらう
ということが大事です。現行のサックスとビンテージ以前のサックスは構造や調整の特性が大きく違います。
また、こういった過去のサックス調整に関する知識は教科書があるわけではなく、職人さん各々の探究心にかかっています。
○ビンテージ・サックスに精通しているリペア職人さんと
○現行モデルの知識だけのリペア職人さん
両者に同じビンテージ・サックスを調整してもらうと、サックスが全く別物と言えるくらい仕上がりが違うという事を覚えておいてください。
ビンテージ・サックスじゃなくても良い演奏スタイル
アメセルの音個性は
だれにでも魅力的な訳ではありません。
明るくクリアな音が好きな方
「T-スクエア」の伊東たけしさんや宮崎隆睦さんのような音
上野耕平さんのようなクラシック・サックスの澄んだ音
また、スムース・ジャズやR&B系のような音
を出したい方は断然「現行モデル」を手に入れたほうが良いです。
また、元T-SQAREの本田雅人さんのように「フュージョン・POPSなどのジャンルで・歯切れの良い・太い音」を出す方はフラセルのMark7を愛用する方も多いです。
↑元「T-SQARE」の宮崎隆睦さん。愛用アルト・サックスはヤナギサワのピンク・ゴールド仕様。
↑クラシック・サックスの上野耕平さん。愛用アルト・サックスはヤマハのYAS-875EXG(ゴールド・プレート)
ちなみにクラシック系では、セルマーのシリーズ3ジュビリー(現行モデル)やヤマハの875EXカスタムを使用する方が多いです。
アメセルを愛用しているプレイヤー
DAVID SAMBORN
↑デイビッド・サンボーン。アメセルのマーク6アルトサックスを愛用。古い楽器なのに彼のハイパワーなプレイに耐えられるのもマーク6のすごいことろ。また、アメセルのアルトの中でシリアルナンバー14万番台が人気なのは彼の影響。
その独特なファズ・トーンでアルト・サックスのメタル・サウンド=デヴィッド・サンボーン・スタイルという位に1時代を築いた彼。
サンボーンは長年アメセルのマーク6・アルトサックスを愛用しています。
KENNY G
↑ケニーGはソプラノサックスをメインにアルト、テナーもアメセルのマーク6を愛用。
こちらもソプラノサックス=ケニーGの音、という位にソプラノ・サックスの代名詞となっていますね。
ケニーGはアメセルのマーク6ソプラノ・サックスを愛用しています。(テナー、アルトもアメセルのマーク6愛用)
彼は自分のソプラノ・サックス・ブランド「KennyG」を作ったにもかかわらず、今でもセルマーのマーク6を愛用していることからも「アメセルでしか出ない音」へのこだわりが伺えます。
JHON COLTRANE
↑ジョン・コルトレーン。セルマーS.B.Aのテナーサックスを愛用。S.B.A/スーパー・バランスド・アクションのテナーが長年人気なのはコルトレーンの影響。
こちらも言わずと知れたJAZZテナー・サックス=コルトレーンの音という存在。
コルトレーンはアメセルのS.B.A/スーパー・バランスド・アクション テナー・サックスを愛用していました。
KENNY GARRETT
↑ケニー・ギャレット。彼の愛用アルトサックスもアメセルのマーク6
現在のジャズ・アルト・サックスの中で唯一無二のスタイルを築き上げたケニー・ギャレット。
彼のアルト・サックスはアメセルのマーク6です。
アメセルを愛用するプレイヤー〜比較編〜
最近のプロ・プレイヤーは特定のサックス・メーカーと専属契約しているケースが多く、
「スポンサーのブランド・サックスを使う」という流れで長年愛用したビンテージ・セルマーから他ブランドに乗り換えるケースも出て来ましたね。
そういった動画で、ビンテージ・セルマーと他ブランド・サックスの音色の違いを聴き比べるのも面白いです。
CANDY DULFER/キャンディ・ダルファー
キャンディ・ダルファーはデビュー当初からアメセルのマーク6を愛用していましたが、現在は自国のブランド「アムステルダム・ウインズ」のサックスを使用、宣伝しています。
<キャンディ・ダルファー/アメセルのセルマー・マーク6>
↑キャンディー・ダルファーはデビュー前からアメセルのマーク6を愛用。
<キャンディ・ダルファー/現在使用しているアムステルダム・ウインズのアルト・サックス>
↑女性ファンキー・アルトの地位を確立してからは「アムステルダム・ウインズ」のアルトサックスを使用。マーク6の時よりも泥臭さが薄れてスムース色が目立つ音色。
勝田一樹
1980年代から日本の有名なPOPSの中で聞かれるアルト・サックス・ソロはほとんどこの方、と言えるほど
スタジオ・ミュージシャンとして不動の地位を確立された勝田一樹さんは普段からアメセルのマーク6を愛用されていますが、
↑勝田一樹さん。彼もアメセルのマーク6を愛用。
キャノンボール やウッドストーンのアルト・サックスも吹かれる機会があるようです。アメセルのマーク6とキャノンボールの音質の違いも聴き比べてみてください。
↑キャノンボール のアルトサックスで演奏する勝田一樹さん。普段のアメセルよりも渋さが取れ、より華やかさが目立つ印象。
こういった音の違いに「おっ!」と思われるかどうか、がまずビンテージ・サックスの入り口です。
あとは興味のある方もない方も、とにかくビンテージ・サックスを見かけることがあったら試しに吹いてみてください。
そしてここで大切なのは、「しっかりと調整されたビンテージ・サックス」を吹いてみるということです。
アメセルとして現存している機種
セルマーのモデルの中で”アメセル”が存在するのは以下のモデルです。
バランスド・アクション
上でも述べましたが、現代サックスの原点となったモデル。どちらかというと「オールド・サックス」の音個性と操作性で 現在ではまたビンテージとしての価格やアメセル、フラセルの区別がそれほど問題にされることはないモデルです。
↑セルマー「バランスド・アクション」のアルトサックス。シリアルナンバーは23,000番台。
スーパー・バランスド・アクション(以降S.B.Aと表記します)
現在マーク6よりも高額な値段で取引されることが多いモデル。アルトよりもテナーの方が高騰しています。 「バランスド・アクション」とこの「S.B.A」は、ベル部にある「U,S,CAN」の刻印でアメセルの判別をします。
↑セルマー「S B.A/スーパー・バランスド・アクション」のアルトサックス(シルバー・プレート仕様)。シリアル・ナンバーは52,000番。
マーク6
ビンテージ・サックスの代名詞。音個性としてはオールドサックスから現代サックスの架け橋的モデルという位置付けで、 アメセル、フラセル共に製造年による前期(オールドの良さ)・中期(オールジャンルに向いている良さ)・後期(マーク7寄りな良さ)で音個性が違うのでシリアル・ナンバーも注意して試奏する必要があります。
↑セルマー「マーク6」の60,000番台(マーク6初期)テナーサックス。マーク6の初期はバランスド・アクションに近いオールドな音が得意。
マーク7
フュージョンやファンク系では愛用者が多いモデルです。 マーク6よりもアメセルの優位性は薄い気がします。 ですが特にテナーサックスではフラセルのマーク7とアメセルのマーク7を吹き比べると「やっぱりアメセルは違う!」となる事が多いです笑。またマーク7はサイド・キーの大きさの違いから前期・後期に分けることができます。
↑セルマー「マーク7」アメセルのテナーサックス。マーク7はアルト、テナー共に「ワイルドなのに崩れず味に変えてくれる出音」が特徴。
まとめ
いかがだったでしょうか。 そもそもアメセルが特別もてはやされる理由は「表現の自由度が高い」ことにあります。
ビンテージ・サックスは高額なので、手に入れるとどうしても楽器に合わせる演奏になりがちですが、本来は「道具として柔軟で自由度が高い」ということを忘れないようにしたいですね。
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