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Worcesterから最後のモデルまで!C.G.コーンの歴代モデル解説

投稿日:2021年1月16日 更新日:

Worcester/ウスターからD.H.Modified/DJHモディファイドまで!

↑6Mアルト・サックスの”Lady Face”彫刻。凝った女性だったりラクガキみたいだったり…個体によってかなり彫り方が違います。(ネイキッド・レディ期)

それではさっそくコーンの歴代モデルの解説です。各モデルの生産時期などは、前回の記事『C.G.コーンのシリアルナンバーと各モデルの比較』を参照してください。

コーン歴代モデルのポイント
  • コーン・サックスは途中まで「昔のピッチ」のものが造られている
  • 「ヴァーチュオーソ・デラックス」は芸術品!
  • 現代でも通用してコーンらしい音が出るのは「ニュー・ワンダー」と「ネイキッド・レディ」
  • 1970年以降の「Made in MEXICO」は評判が悪い
  • 最後のモデル「DJHモデファイド」はカイルベルト製!

Worcester/ウスター

フランスでアドルフ・サックスがサキソフォンの特許を取得したのが1846年ですが、その約30年後にアメリカに「アドルフ・サックス」モデルが持ち込まれ、
これをサンプルに1888年、コーンによって初のアメリカ製サックスが造られました。

(ちなみにこの最初のサックスを設計したのが「Buescher」の創始者”ガス・ブッシャー”だったと言われています。1894年には、Buescherはコーンを離れ、「Buescher」ブランドを創業します。)

まだモデル名などない時期ですが、ワンダー・インプルーヴド前のこの時期の個体を当時の工場があった都市「Worcester/ウスター」の名前で分類します。

 

Wonder Improved/ワンダー・インプルーヴド

↑1895年頃製ワンダー・インプルーヴド個体のオクターブ・キィ部分です。現代サックスとちがって2つのオクターブ・キィがついているのがわかります。<画像元:saxophone.org

Wonder Improvedは、「Wonder改良型」という意味です。

1893年にC.G.コーンはシカゴ万国博覧会に「Wonder/ワンダー」と名付けたサックスを出品します。

そして翌年1894年に、「Wander」改良型のキィシステムを発表し、1895年からこのキィシステムを搭載したサックスの大量生産を開始します。(ソプラノ、アルト、テナー、バリトン)

 

ワンダー・インプルーヴドはコーンの工場製造時期(ベルに彫刻された工場名)によって

  1. Worcester/ウスター(アメリカ合衆国マサチューセッツ州にある街)工場期
  2. Elkhart/エルクハート(アメリカ合衆国インディアナ州にある街)工場期
  3. 労働組合加入時期の組合スタンプ”FACTORY34″期

の3期に分けられます。

“factory34″スタンプ期に入るまでは、

    • ダブルオクターブキィ
    • ハイ・ピッチ

が主流でした。

3期に渡り、刻印の違い以外は特に変更点など見られない時期のモデルです。

 

1.Wonder Improved- Elkhart IND & Worcester MASS(ウスター)〜ウスター工場期〜

↑ワンダー・インプルーヴド初期モデル。1895年頃製<画像元:saxophone.org

「ウスター」工場で製造されていた時期のものです。パッと見た目はNew Wonderとさほど変わらないデザインに見えますが「セルマー750番」のように「オクターブ・キィが2つ」です。
ノーマル管体モデルは指貝もありません。(ゴールド・プレートなど特別仕様モデルは指貝があります)

ベル部に”Elkhart IND & Worcester MASS”と彫刻されています。

2.Wonder Improved – Elkhart IND & New York〜エルクハート工場移転〜

↑”ワンダー・インプルーヴド”中間期モデル。最盛期のコーンと違ってまだ刻印がシリアル・ナンバーだけです。「Low Pitch」を表す「L」刻印もありません。ちなみにこの個体もオクターブ・キィがまだ2つです。<画像元:saxophone.org

製造工場がエルクハートに移ってからの個体です。ベル彫刻が”Elkhart IND & New York”に変わります。
まだオクターブ・キィが2つのモデルがあり、ピッチも「Low Pitch」ではありません。

3.Wonder Improved – Elkhart IND”factory34″刻印〜労働組合スタンプ期〜

↑”FACTORY34″の認証刻印が入った1914年製ワンダー・インプルーヴド。Low Pitchを表す”L”の刻印もこの時期から始まります。ちなみにシリアル・ナンバー上の”T”はテナー・サックスの意味です。
<画像元:SaxophonePeople.com

1900年代、アメリカ国内では工場労働者の権利と労働環境向上の波がおこり、1907年ころC.G.Conn(やBuescher/ビッシャー)が労働組合(union)に加入します。この時期に製造された管体には労働組合の承認スタンプ「FACTORY34」が刻印されました。この時期から「Low Pitch」モデルが見られるようになります。

 

New Invention/ニュー・インヴェンション

↑左がニューインヴェンションのテーブル・キィ。真ん中ニューワンダー、右が6M。

この時期まで”FACTORY34″スタンプが見られます。

1910年に工場で火災がおき、その際、復興記念として記念限定モデル「New Invention」をリリースしました。

このモデルの大きな特徴は「オクターブ・キィが1つになった」ことです。
外観におおきなちがいはありませんがフロントFキィも備え、テーブル・キィも「セルマー・モデル26」のようなデザインになっています。

復興のタイミングで新工場にて次モデル「New Wonder」の新ラインも完成しました。

 

New Wonder/ニュー・ワンダー〜コーンが最も普及した時期〜

ここからが本格的な「コーン・サックス」のスタートです。

このモデルから徐々に「ソルダード・トーンホール」という”新技術”が導入されはじめます。

New Wonder -series I

 

動画元:Stohrer Music

↑New Wonder シリーズ1 のテナーサックス。New Wonderモデルはバリエーションも多く、他ブランドのステンシル管体としても多く使われました。

このニュー・ワンダーから現代でも評価の高い「独特な音の太さ」が確立します。

 

New Wonder – series II “Chu Berry”〜チュー・ベリー〜

動画元:Saxreview

↑New Wonder2は別名「チュー・ベリー」と言います。New WonderIIはマイクロ・チューニング・デバイスとロールド・トーンホールが標準装備です。

ニュー・ワンダーはこのseriesⅡから全管体が「ロールド・トーンホール」になります。

<愛称の元になった『レオン・ブラウン”チュー”ベリー』>

Chu Berry/チュー・ベリーの愛称の由来は、当時のサックス・プレイヤー『レオン・ブラウン”チュー”ベリー/Leon Brown “Chu” Berry(アメリカ1908-1941)』です。

一般的にこの「New WonderII」を”チュー・ベリー”と呼びますが、チュー・ベリー本人が愛用していたのは「Transitional/トランジショナル」の後期モデル(1934年製)テナー・サックスなんです(出典:wikipedia)。

前回の記事『C.G.コーンのシリアルナンバーと各モデルの比較』を見ていただくと、1934年は「トランジショナル」の中でも最後期だということがわかります。

…ですが、チュー・ベリーの愛機の写真(wikipediaで鮮明な画像を確認できます)を見ると、1934年製トランジショナルとはいえ、パッと見は確かに「ニュー・ワンダーII」な個体です。

動画元:35ruff

彼の愛機はまだベル部のトーン・ホールが”バタフライ”ですね。それにテーブル・キィもネイキッド・レディ形状ではなく完全に「ニュー・ワンダーII」形状です。

「トランジショナル」というのは正式なモデル名ではないので、モデルとしては「ニュー・ワンダーII」になります。

ちなみにC.G.コーンがおおやけに「チュー・ベリー」という呼び方を使った記録はありません。

New WonderII期は最も生産量が多かった時期でもあり、「高品質・手頃価格」のこのモデルはステンシルも含め広く普及しました。

 

New Wonder – Artist Special〜豪華な彫刻モデル〜

↑こちらはCONN sortiaというサイト。コーンのアーティスト・スペシャルのいろいろな豪華彫刻が見られる素晴らしいサイトです。他にも歴代の”レディフェイス”彫刻のコレクションなども公開してくれています。当時の芸術としか言いようのない彫刻は必見です!(画像をタップするとCONN sortiaにジャンプします。)<出典:GET A SAX

1919年頃からNew Wonder(seriesⅠ)をベースに、彫刻が凝ったモデルが造られ始めます。これが「Artist Special/アーティスト・スペシャル」です。

次のseriesⅡをベースにした「ヴァーチュオーソ・デラックス」との違いはサイドキィ類のパール加工がないことです。

「ヴァーチュオーソ・デラックス」が生まれてからも、並行してこの「(seriesⅡをベースにした)アーティスト・スペシャル」も造られました。

ここから1928年くらいまでConnの「サックスに豪華な彫刻をいれる」流れが続きます。

ちなみにアメリカの他の代表ブランドである「キング」「ビッシャー」「マーティン」もそれぞれ「豪華な彫刻」モデル期がありますが、大体1940年代に入ってからなので、このコーンが豪華彫刻の元祖と言えます。

 

New Wonder – Virtuoso Deluxe〜芸術品にまで昇華〜

↑すごすぎる”芸術品”ヴァーチュオーソ・デラックスGPアルト・サックス1926年製<画像元:MAAS museum

「Virtuoso Deluxe/ヴァーチュオーソ・デラックス」は、「Artist Special/アーティスト・スペシャル」をさらに豪華絢爛に仕上げた芸術品レベルの特注モデルです。

アーティスト・スペシャルが部分的な豪華彫刻だったのに加え、キングのスーパー20のようにテーブル・キィや右手パームキィ、オクターブキィなどに真珠加工を施して個体によっては管体全部に緻密な彫刻が彫られました。

特に彫刻に関しては「Stenberg兄弟」という兄弟彫刻師が手がけた個体が素晴らしく、群を抜いていました。

「ヴァーチュオーソ・デラックス」はほとんどショーやコンペティションの賞品用だったようですが、アメリカにおいて(スィング)ジャズ全盛期で、ジャズが最も注目を浴びていた時代の象徴的なモデルです。

 

Conn-O-Sax(20M) Mezo Soprano (24M)〜サックスの可能性拡大期〜

「Mシリーズ」の項で触れますが、ニュー・ワンダー期からあらゆる種類のサックスがラインナップに加えられました。

その中でも実験的なのがこの「O-サックス」と「メゾ・ソプラノ」です。

動画元:SaxquestShop

↑ジミー・カーター氏がSaxquestにてコーンOサックスを試奏しているようす。ストレート管体のアルトも民族楽器のような音色ですが先端のボール部分が加わってさらにエキゾチックです。

動画元:Randy Cole

↑1927年製メゾ・ソプラノを実際の演奏で使っています!ユニークな音程感がコルトレーンっぽくて味があります。

メゾ・ソプラノとはF管体のサックスのことです。ニュー・ワンダーをベースにしたアルトとカーブド・ソプラノの中間のような大きさの「メゾ・ソプラノ」サックスは、1930年まで造られました。

この変わった2種類のサックスに共通しているのは「F管」なことです。「Oサックス」はF管アルトになります。

 

New Wonder – Transitional/トランジショナル 〜”過渡期”モデル〜

↑ Transitionalモデルの各パーツ。ほぼ「ネイキッド・レディ」6Mアルト・サックスや10Mテナー・サックスのパーツです。この時期の個体は「トランディショナル(過渡期)」の名前の通り、こういったパーツが部分的に導入されています。

“Transitional”とは”過渡期”という意味です。コーンの正式モデル名ではなくて、マニアの分類上、使われるようになった名前です。

その名のとおり、この時期の管体はちょうどNew Wonder管体をベースに、ネックの造りやテーブル・キィ形状は次の”Naked Lady”の特徴を備えている、というまさに過渡期な外観をしています。

個体によっては”Lady Face彫刻”の5角形の中がまだ女性デザインではなかったり、女性のヘアスタイルがショート・カットだったり…

とレディ・フェイス・デザインに落ち着く直前の試行錯誤が見れるものもあります。

 

動画元:Sax Society

↑1932年製「トランディショナル」アルト・サックス。動画の前半でネックやテーブル・キィが見れます。

 

M シリーズ

New Wonder以降、コーンのモデルは「Mモデル」としてサックスの種類ごとに分類されました。それぞれ導入の時期が異なり、たとえば今でも人気のカーブド・ソプラノ(4M)などはNew Wonder期に生まれました。アルトで有名な「6M」は次の「ネイキッド・レディ」期からの導入です。また、1970年以降のメキシコ工場期まで生産されて続けたもの(11M・バリトンサックスなど)もあります。

Mシリーズ・ラインナップ
  • 4M:カーブド・ソプラノ・サックス(New Wonder管体)
  • 6M: アルト・サックス(Naked Lady管体)
  • 8M:Cメロ・サックス(New Wonder管体)
  • 10M:テナーサックス(Naked Lady管体)
  • 11M:「Low-A」バリトン・サックス(Transitionnal期から)
  • 12M:「Low-B♭」バリトン・サックス(Transitional期から製造・ダブルソケット)
  • 14M:バス・サックス(New Wonder管体)
  • 20M:O-sax(製造後期から”Naked Lady”彫刻の個体もあり)
  • 24M:メゾ・ソプラノ(E♭ソプラノサックス/New Wonder管体)
  • 26M:アルトサックス・カスタムモデル(Naked Lady管体)
  • 28M:アルトサックス(Connstellation管体)
  • 30M:テナーサックス・カスタムモデル(Naked Lady管体)
11M:「Low-A」バリトン・サックス

動画元:Uncle Frank

↑Low-Bバリトン・サックス。こちらがいわゆる現代のバリトン・サックスですね。オクターブ下キィがついているタイプです。

12M:「Low-B♭」バリトン・サックス

動画元:Janne Davidsson

↑Low-B♭バリトン・サックス。「ショート・ベル」タイプでオクターブ下キィ(Low-A)がありません。

奇数ナンバーのMモデル

上のリストを見て「なんで偶数ナンバーしかないの?」と思われた方も多いと思います。

これは、Mモデルが偶数ナンバーしかないのではなくて奇数ナンバーは「”ハイ・ピッチ・モデル”だから」なんです。

現代の音楽に使う楽器は「Low Pitch」に統一されています。

「ハイ・ピッチ/High Pich」と「Low Pitch」について、そして他のMモデルについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。
→『制作中』

The Artist “Naked Lady/ネイキッド・レディ”〜コーンの看板モデル〜

↑左が26M「CONNQUEROR/コンクエラー」のネイキッド・レディ彫刻。右が6Mのネイキッド・レディ彫刻。パッと見、同じデザインですがよく見ると左の彫刻はちゃんと「CONNQUEROR」と入っています。

Mモデルの中で以下のような特徴を持つようになった個体で、”ネイキッド・レディ(またはレディ・フェイス)”と呼ばれる共通した彫刻デザインを持つものを「Naked Lady」期として分類します。正式名称は「The Artist」モデルです。

”レディ・フェイス彫刻”とはアール・デコ風のデザインの中心に5角形が描かれ、その中に女性の顔がデザインされたものです。

また、シリアル・ナンバーの上に”Viii”刻印が入ったものが最盛期管体と言われていて、この「Viiiスタンプ」管体はConnquererモデルにも存在します。

 

↑6Mアルト・サックスの「Viii」刻印。これが入っている個体を「viiiスタンプ」と呼びます。

 

6M: アルト・サックス

↑1937年”ネイキッド・レディ”6Mアルトサックス 。ネイキッド・レディは1960年代まで造られますが、やはり「コンクエラー」と時期が重なっているこのあたりの年代が最盛期な気がします。

10M:テナーサックス

動画元:Stohrer Music

↑こちらは大変めずらしい10Mの「プロトタイプ」モデルをブランフォード・マルサリスが試奏しています。よく見るとネックがすごい「グース・ネック」で、ネック補強バーに見えるのがオクターブ・パーツです!

Connquerer Model (26M & 30M)/コンクエラー〜Mシリーズ・カスタム〜

Connquerer/コンクエラー・モデルは6Mアルト・サックスと10Mテナー・サックスのカスタム・モデルです。(アルトとテナーのみ製造されました)

それぞれ細かい微調整ができるようキィ・システム構造が作り込まれ、サイド・キィや右手の小指キィ(C、D#)オクターブ・キィの先端がシルバー加工されました。

Connquerer/コンクエラー・モデルもネイキッド・レディ同様「Viiiスタンプ」の個体が人気です。

30M:テナー・サックス

動画元:Daniele Sepe

↑コンクエラー・テナーサックスのシルバー・プレート。音が「さすがコーン・テナー」な音ですね。

26M:アルト・サックス

動画元:Stohrer Music

↑26Mと30M、特に後期コンクエラーと前期コンクエラーのネックとオクターブ機構の違いを解説してくれています。

6Mアルト・サックスと10Mテナー・サックスの「カスタム・モデル」という位置づけです。アルト(26M)とテナー(30M)だけが造られました。

シリアル・ナンバー刻印のところに「Viii」刻印が入っているものが一番手がかかっている個体だと言われていて今でも人気です。

高音域のサイドキィや右手パーム・キィのヘッド部分にシルバーが使われています。

ベル部には「Lady Face」彫刻が入っています。

各所が細かく微調整できるよう工夫された素晴らしい機構が特徴ですが、現代のサックスとかなり違う(複雑なシステムな)ため、これら「コンクエラー(26M,30M)」や「コンステレーション(28M)」などは、手に入れる前にきちんと調整できるリペア職人さんを見つけておく必要があります。

 

Connstellation Model (28M)/コンステレーション〜最後の”完成形”Mモデル〜

↑左はプラスチック・カバー破損のためか自作キィガードを取り付けてある個体。右が28Mコンステレーションの”通常”プラスチック・カバー装着状態。中古市場に出回っている28Mの中には、プラスチック・カバーが劣化してしまっているケースが多く、こうしてオリジナルのキィガードを後からつけている物もたまに見かけます。

コーン・サックスの「完成形」とも言われる28M。ご覧の通りの「プラスチック・カバー」がトレード・マークです。アルト・サックスだけが造られました。

この「プラスチック・カバー」はとても珍しいですが、実は他ブランドにも「透明プラスチック・カバー」を採用していたサックスがあります。

↑カイルベルトのTone KINGアルトサックス(1950年代)。

「カイルベルト」の「トーンキング」モデルは一時期「プラスチック・カバー」を採用していました。しかもカイルベルトにはこの後メタル製のキィカバー・バージョンのモデルもあり、これらは通称「エンジェル・ウイング」と呼ばれています。

 

Director 14M & 16M “シューティング・スター” 〜低価格路線へ〜

↑Conn Director”シューティング・スター”のベル部彫刻。POPなデザインが目印です。

ベルの「星」をモチーフにしたデザインで有名な「シューティング・スター」モデルです。

コーンのプロ・モデル・ライン生産が終わるきっかけとなったモデルで、開発当時からミドル・クラス・モデルとして造られました。

ちなみにこの「Director」モデルは、PanAmerican/パン・アメリカンのサックスを基に開発された、と言われています。

(Pan Americanは1955年までコーン傘下でアマチュア・学生市場をターゲットにした”セカンド・ライン”ブランドとして存続していました。出典: wikipedia)

1970年、C.G.コーンはちょうどこの「シューティング・スター」製造期の途中でエルクハート工場を閉鎖することになり、木管楽器部門はメキシコ工場での生産に完全移行します。

動画元:Bagas Anjar

↑メキシコ工場製シューティング・スター。評判悪い、と言っても吹ける人が吹けば問題ない出音です。

 

このメキシコ工場期のコーンはかなり評判が悪く、この時期から「50M」のような「ステューデント・モデル」もコーン・ラインで生産されるようになり、かつてのコーンのイメージは1970年以降、地に墜ちてしまいました。

 

50M、7M〜エルクハート工場製ではないモデル〜

↑Conn 7Mのベル部彫刻。最盛期の「7Mアルト・サックス・ハイピッチ・モデル」とはなんの関係もありません。

Directorモデルが生産されはじめた1950年代後半に、50Mという「ステューデント・モデル」(学生向けを想定された、価格をおさえたパーツ簡略化モデル)が造られました。

50Mは1960年前半に生産完了し、その後7Mが登場します。

ちなみに「7M」は、ニュー・ワンダー期からネイキッド・レディ期まで造られた「ハイ・ピッチ・モデル」のアルト・サックス(New Wonder管体)が存在しますが、これとは全く関係ありません。

 

これ以降、現在の「Conn-Selmer」傘下のC.G.Connに至るまで以前のMモデル名を再利用したモデルをいくつか販売していますが、復刻というわけではなく歴代モデルとは関係がありません。

動画元:Arm Chang

↑コーン7Mアルトサックス 。

1960年以降、コーン・サックスの生産ラインはエルクハート工場とアリゾナ州のノガレス(Nogalesはメキシコとの国境にある都市でメキシコ・ソノラ州にまたがる”ツイン・シティ”)工場と2箇所になります。

そして1970年以降は完全にノガレス工場、いわゆる「メキシコ工場」だけで7M「新プロ・モデル」が製造されました。

 

↑ステューデント・モデルにあたる50Mアルトサックス 。

<新たに割り振られたシリアル・ナンバー>

コスト・ダウンの方向に向いていたこのあたり(1960年代以降)から、コーンは価格をおさえたモデル生産へとシフトしていきます。

このメキシコ工場登場→完全移行期の新生産ラインは、それまでのコーンの歴代プロ・モデルとは別の生産ラインのため、シリアル・ナンバーは新たに

    • 50Mなどステューデント・モデルは”12345V”のような「4けた〜5けた数字+アルファベット」
    • 7Mなどミドル・クラス以上は”N12345″のような「アルファベット+1〜5けた数字」

のものが割り当てられました。(歴代モデルもM12345のようなシリアル・ナンバーの打ち方ですが、歴代モデルはこの1960年頃までに90万番台の6ケタまで生産されていて、歴代モデルの5ケタ台というと1900〜1920年代製造のものになります。なので混同することはありません)

↑メキシコ工場製造の「11M」バリトン・サックス。右はシリアル・ナンバー部を拡大したもの。やはり”アルファベット+5ケタ”のシリアル・ナンバーです。メキシコ工場移行後1970年代まで、こうした”簡略化されたMモデル期管体”も引き続き生産されました。<画像元:MODERN MUSIC

 

DJH Modified/DJHモディファイド〜カイルベルト製ステンシル〜

動画元:SaxquestShop

↑Conn DJHモディファイド・アルトサックス 。カイルベルトのステンシルですがプロ・モデルと中堅モデルの2ライン展開でした。

1980年、コーンは当時の楽器メーカー界の「大物」ダニエル・ヘンキン氏に買収されます。

ダニエル・ヘンキン氏は「Leblanc」の社員からスタートし、楽器界の広告・マーケティング部門で手腕を発揮した人物です。

彼はコーン買収当時、合計26もの老舗ブランドを買収していました。(その中にキングも含まれます。)

彼が1980年コーン買収後、1986年にそれらをスウェーデンの投資会社SkåneGripen(後にUMIを設立する会社)に売却して以降の流れは「キング」の記事の最後の章で触れています。

ダニエル・ヘンキン氏がコーンのオーナーだった時期(1980〜1985)に「DJHモディファイド」というモデルが造られます。

このモデルはベルにかつての「Lady Face彫刻」が入っているのが特徴です。しかし管体はカイルベルト製でした。

この「DJHモディファイド」については、以下の記事で詳しく解説しています。

C.G.Conn ltd最後のモデル『D.J.H.Modified』

その後、コーンは「Conn-Selmer」として再編され、以降は1970年からの「ステューデント・モデル主流」の路線を引継ぎ現在に至ります。

「Conn-Selmer」になってからのC.G.ConnもMシリーズを販売していますが(24Mなど)、これは以前の「プロ・モデルだった」Mシリーズとは全く関係のないものです。

ここまで目を通して下さった方は、もう一度以下の記事で製造年を比較するとさらに楽しいと思います。

C.G.コーンのシリアルナンバーと各モデルの比較〜ヴィンテージ・サックス〜

 

-中古サックスの魅力

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