KINGの黄金期モデル「VOLL True〜VOLL TRueII」「ZEPHYR〜ZEPHYRSpecial」「Super20」
今回はキング全盛期モデルである
- VOLL TRUE II/ヴォル・トゥルー・ツー
- ZEPHYR/ゼファー
- SUPER20/スーパー20
です。これらのモデルは長年に渡り生産されていたので、時期によって仕様が違います。
今回は仕様の違いを解説して「どの時期が最盛期なのか」が分かる内容になっています。
(SUPER21/スーパー21については第一回の記事をご覧ください。)
※今回の記事で各モデルを「期」で分類していますが、これは「マイナー・チェンジの特徴」を判断基準として分類しているもので、それに伴うシリアルNoと製造時期は参考の「めやす」としてご覧ください。
まず「Voll True2、ゼファー、スーパー20のポイント」です。
- キングのプロ演奏用モデルの元祖が「VOLL TRUE」。そこから各代表モデルに枝分かれしている。
- ゼファーは大きなマイナーチェンジが5期に分けられる。
- スーパー20はマイナーチェンジが6期に分けられる。
- 各モデルのそれぞれの時期は「ネック」「ストラップリング」「パールインレイ(=キィに真珠加工)」「キィガード」「ベル支柱」などにわかりやすく現れる。
キング最初のプロ・モデル「VOLL TRUE」
1929年後半からキングの「KING」モデルに改良が加えられ、「Voll True」が誕生しました。(1930〜1932年ころ)
↑キング「Voll True」です。動画の4:44あたりで全体の外観が確認できますが、ベル部トーン・ホールがまだコーンなどと同じ「バタフライ・トーンホール」になっているのがわかります。
動画元:MARVIC Instruments
「Voll True」は、どちらかというと「コーン/C,G,Conn」のような「アメリカン・オールド・サックス」的な見た目ですね。ここからキングの本格的なプロ・モデルが始まりました。このモデルの時期にはあらゆるサックスのバリエーション(ソプラノ、アルト、テナー、バリトン、Cメロ)と「サクセロ」が開発されました。
「VOLL TRUE II」は、まんま「ゼファー」
(1932〜1935年ころ)
1932年に「Voll True」の改良型として「Voll TrueII」が発売されます。最初にまずアルトとテナーが開発されました。
↑キング「Voll TrueII」。すでに「ゼファー」の特徴を備えているのがわかります。
こちらの動画で見ていただくとわかるとおり、VOLL TRUE IIモデルは「ほぼゼファー」です。
パッと見ただけでは、ゼファーと見分けがつかないのではないでしょうか。
この時点ですでにゼファーの特徴である「ベル部ワイヤー型キィガード」や「彫刻デザイン」「四角い右手パームキィ」などが見られます。
ですが、よく見るとストラップリングが1穴だったり、ネックもダブルソケットではなく普通のネックです。
また、ベル部彫刻が“ZEPHYR”と同じようなデザインで“VOL TRUE”と彫られています。
キング最初の代表モデル「ZEPHYR/ゼファー」
↑ゼファーが確立した2期モデル。3穴ストラップリング・ベル部ワイヤー型キィガード・四角い右手パームキィそしてダブルソケット・ネックが特徴です。VollTrueIIやゼファー・スペシャルと見比べて見てください。<出典元:reverb>
「ZEPHYR/ゼファー」は5期に分類できる
「VOLL-TRUEII」の流れから、その豪華版のようなデザインで「Zephyr/ゼファー」が誕生します。
ゼファーは誕生した1935年から生産完了の1973年までマイナー・チェンジによって5期に分けられます。
ゼファーは新規で設計・開発されたわけではなく正確には
「Voll TrueII」が徐々に改良されていくにつれ、シリアル・ナンバー(以下#で表記)17万番台あたりから「Zephyr」と彫刻されるようになり、そこから別モデルとして確立した、という流れです。
ゼファー#170xxxから#180xxx(1935〜1936)あたりまでは「Voll TrueII」と同じ外観です。
シリアル・ナンバー188xxx番台(1936年)あたりからは「3穴ストラップ・リング」「ダブル・ソケット・ネック」が採用されます。
「ダブルソケット・ネック」は、「コーン6M」などでも見ることができますね。2重になっているネック・ソケットが気密性を高めると言われていますが、見た目通り「手間のかかる」もので、このネックは#383xxx(1960年代)あたりまで採用されます。
(前回の記事・表中の”Zephyr1期〜4期”を参照)
Zephyr/ゼファー1期〜Vol-TrueIIと同型〜
↑ゼファー1期モデル。
#179xxx前後から180xxx前後まで(1936年)が1期です。
この時期はベル部彫刻に”Zephyr”と彫ってある以外はほぼVoll TrueII後期と同じものです。
シリアル・ナンバーでの分類はあいまいな時期ですが、#180xxx前後の個体で「ダブル・ソケット・ネック」がまだ採用されていないものが1期になります。
Zephyr/ゼファー2期〜3穴ストラップリングとダブルソケットネック導入・”スペシャル”が派生
↑ゼファーが確立した2期モデル(テナー)。こちらの個体はスターリング・シルバー・ネック+フル・パール仕様です。スーパー20のスターリング・シルバー・ネックとデザインが違うのが分かります。この個体のような豪華バージョンのゼファーとゼファー・スペシャルの違いは「ベル彫刻に”ZEPHYR SPECIAL”と彫ってあるか」と「ベル部トーン・ホール・カップに彫刻があるか(ゼファーはここに彫刻がない)」です。
動画元:Luthier de Sopros Adriano Sviech
#180xxxあたりから237xxx(1937年〜1940年ころ)まで
ここから「ダブルソケット・ネック」と「3穴ストラップ・リング」が導入されます。この時期に「シルバー・ネック」「フル・パール(テーブル・キィ+サイドキー+右手パームキィ+オクターブキィに真珠加工)」のような豪華バリエーションも登場し、#200xxx(1937年)からゼファー3期後半(1946年ころ)まで「ゼファー・スペシャル」が上位モデルとして派生しました。
Zephyr/ゼファー3期〜この時期Super20と同管体〜
↑ゼファー3期モデル。この時期のゼファーは右手パームキィが角張っていません。スーパー20と管体を共有している影響と思われます。
#237xxxあたりから305xxxあたり(1938年〜1950年)まで
ちょうど「ゼファー・スペシャル」そして「スーパー20」が登場した時期に並行して製造されていたのが3期です。管体自体はこの時期のスーパー20と同じものを使っています。
Zephyr/ゼファー4期〜ベル部キィガードがカバー型に・3穴ストラップリング廃止〜
↑ゼファー4期モデル。ベル部キィガードが「ワイヤー型」ではなくなっているのがわかります。
#305xxxあたりから423xxxあたりまで(1950年〜1967年)
ここからゼファーの「ベル部ワイヤー型キィガード」がなくなり、「普通の」キィガードに変更されます。
また、3穴ストラップ・リングが1穴タイプに変更されます。
ゼファーは4期以降、コストダウンの簡略化に進みます。
Zephyr/ゼファー5期〜管体の設計変更・ダブルソケットネック廃止〜
↑ゼファー5期モデル。ネックがダブル・ソケットではないのがわかります。
#423xxxから540xxxまで(1967年〜1977年ころ)
(4期の#383xxxあたりから)ダブルソケット・ネックが通常のネックに変更されます。
この時期(#426xxxあたり)にキングはSeeburg Corporationという会社に買収され、製造工場が「クリーブランド」から「イーストレーク」に移転します。
その影響で管体が再設計されています。
ちなみにこの時期、「スーパー20の5期」も並行生産されています。そして1977年頃からゼファーは生産されなくなります。
(その後、スーパー20だけコスト・ダウンをはかられながら生産が継続されます)
「ZEPHYR SPECIALゼファー・スペシャル」〜ゼファーの上位機種でそのままSUPER20へとつながるモデル
↑こちらは1942年頃のゼファー・スペシャル。ご覧の通りゼファー2期モデルの「豪華バージョン」という外観です。特徴的な「ベル部トーンホール・カップの彫刻」は、このゼファー・スペシャルと、この後に誕生するスーパー20の2期まで見られます。また、右手パーム・キィとテーブル・キィに「パールインレイ」が見られます。(こういった個体をフル・パールと言います)
ゼファー2期後半にあたる#200xxxからゼファー3期途中まで、ゼファーと並行して「ゼファー・スペシャル」が導入されました。ゼファーと一番違うのは「ベル彫刻に”Zephyr Special”と彫ってあること」「ベル部トーン・ホール・カップに彫刻が入っていること」「パールインレイ(右手パーム・キィに真珠加工が施してある)なこと」で、この時期がまさにゼファーの絶頂期だったことが伺えます。
この豪華仕様の傾向はそのままSuper20の初期モデル(2期まで)につながります。
SUPER20〜豪華で世界初の「シルバー・ソニック」を産み出したモデル
ゼファー・スペシャルの発展型として生まれた「Super20」は1945年の登場から1998年の生産完了まで6期に分類できます。
Super20がZephyrと決定的に違ったのは「スターリング・シルバー製ネックが標準装備」「アッパー・タイプ・ネック」だったこと、そして「ベル部のキィガードの形状」です。
そしてゼファー同様「ダブル・ソケット・ネック」が採用されていました。
ですが3期以降は、徐々に手の込んだパーツが簡略化されていきます。
Super20/スーパー20の1期〜3穴ストラップリングとダブルソケットネック導入〜
↑1.5期のスーパー20。1期は3穴ストラップ・リングですが、この1.5期モデルから1穴リングに変更されます。これに「スターリング・シルバー・ベル」がついたバリエーションが加わったのが2期です。ベル部キィ・ガード形状やテーブル・キィ形状、ネック形状にゼファー・スペシャルとの違いが見られます。
#275xxxあたりから#295xxx手前まで(1946年〜1949年)
ゼファー・スペシャルから派生したスーパー20は、この時期ほぼゼファースペシャルと同じ仕様(パールインレイ・ベル部トーンホールカップの彫刻・3穴ストラップリング・ダブルソケットネック)の特徴を備えています。
そしてゼファー系と区別できる「四角くない右手パームキィ」「ワイヤーデザインでないベル部キィガード」「テーブル・キィの形状」「アッパータイプのネックオクターブパーツ」を備えています。
Super20/スーパー20の1.5期〜3穴ストラップ・リング廃止〜
スーパー20誕生期にはゼファー・スペシャルと同じだった3穴ストラップ・リングが、#295xxxあたり(1948年)以降、1穴ストラップ・リングに変更されます。マニアの間では、この時期を「1.5期」と分類しています。
Super20/スーパー20の2期〜最盛期・スターリング・シルバー・ベル仕様が登場〜
↑スーパー20の2期モデル。これが「最盛期のスーパー20」です。スターリング・シルバーのベルの彫刻部に、わざわざゴールド・プレートが施してあります(ゴールドインレイ)。さらにこの画像の個体はテーブルキィ、右手パームキィにパール加工されていて(フル・パール)、ベル部トーンホール・カップにも「ゼファー・スペシャル」譲りの彫刻が施されています。<出典元:GET A SAX>
↑さらに管体内側に施された「キィカバー」もこの時期の大きな特徴です。このカバーはスーパー20の2期までで、3期以降のモデルには見られません。<出典元:GET A SAX>
#305xxxから338000まで(1950年〜1955年)
1期に引き続き「スターリング・シルバー&ダブルソケットのアッパータイプ・ネック」「右手パーム・キィやテーブル・キィのパールインレイ」に加え、画像のような「スターリング・シルバー製ベル」のバージョンなどが登場したのが2期です。
また、この時期はゼファーの4期モデルも並行して生産されていました。
Super20/スーパー20の3期〜パールインレイ廃止・シルバー・ネックがオプションに〜
↑スーパー20の3期モデル。
Sax Spy
#34xxxxから37999まで(1955〜1962年)
この時期、標準装備だった「スターリング・シルバー製ネック」がオプションに変更され、ラッカータイプのネックが登場します。
また、「パールインレイ」が廃止されました。なので「フルパール・モデル」は2期以前のものとなります。
Super20/スーパー20の4期〜ダブルソケット・ネック廃止〜
↑スーパー20の4期モデル。ベルとネックがスターリング・シルバーの個体です。
Musical Instrument City
#380000から425999まで(1962〜1967年)
この時期にダブルソケット・ネックが廃止されます。アッパータイプ・デザインは引き続き採用されました。
ちなみにこの時期「ゼファー4期」が並行して生産されていますが、ゼファーのダブルソケット・ネック廃止は、次の「ゼファー5期」からです。
Super20/スーパー20の5期〜キング買収・工場移転〜
↑スーパー20の5期モデル。この個体のシリアル・ナンバーは437xxx。ベル部最下段に”EastLake/イーストレイク”と彫刻されているのが5期の目印です。
#426000〜520000(1967〜1976年)
「ゼファー5期」でも触れましたが、この時期(1967年)キングはSeeburg Corporation
に買収されイーストレイクへ工場移転します。
工場移転後「ベル部に”EastLake”彫刻」がほどこされたスーパー20の5期モデルは「音が太くパワーがあり、音程も良い」と言われています。
Super20/スーパー20の6期〜アッパータイプ・ネック廃止〜
↑スーパー20最後期の6期モデルです。5期との違いはこの時期から“USA”と刻印が入ることです。
#500000〜800000(1973〜1998年)
工場移転後、1981年にキングはSeeburg Corporation(ジュークボックス製造で成功した会社)からUMI(1986年に合併設立された会社で、いろいろな老舗楽器ブランドを傘下に吸収した。)に買収されます。
第一回の記事で触れた通り、このスーパー20の6期後半に並行して「スーパー21プロジェクト」が立ち上がりますが、「スーパー21」生産終了後も「スーパー20」は生産を続け、1998年に生産完了となります。
ちなみにC,G,Conn/コーンもこの時期UMI傘下に吸収されていて、キングとコーンは
同じグループ・ブランドとしてその後2000年にSteinwayMusical Instrumentsに(UMIとして)買収されます。
2003年1月にSteinwayはキング、コーンを含むUMI資産を子会社の
The Selmer Company(フランス・セルマーのアメリカ販売代理店であるセルマーUSAをルーツとする会社)と統合して
「Conn-Selmer/コーン-セルマー」部門を設立し現在に至ります。
コーン-セルマーになってからのキングは金管楽器製造だけになっています。
キングの「全盛期モデル」は「#20万9千番あたりから#34万番台の手前まで」
いかがだったでしょうか。こうして仕様の違いを追うと、キング最盛期の個体は「ゼファー・スペシャル」「スーパー20の1期から2期」そしてその時期に並行して生産されていた「ゼファー2期〜4期前半」あたりだということがわかります(もう1度、前回記事の比較表も見てみてください)。
最近はヤナギサワ のシルバー・ソニック・モデルがこのキングの座にとって替わってしまった感がありますが(こうして見ると、”エリモナ”以降のヤナギサワはかなりキングを参考にしているのがわかりますね!)
実際にキングを吹いてみると、独特の吹きやすさと音の通り、パワーを持っている魅力的なサックスです。
程度の良い個体にはなかなかお目にかかれませんが、この記事を参考にして、ぜひキングの魅力を楽しんでください。
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