今回は『ユリウス・カイルベルト』の歴史「創業からグラスリッツ期まで」編です。
『ユリウス・カイルベルト』はドイツ・チェコスロバキアの激動期に創業、発展したブランドです。
なので、その歴史の理解には当時のドイツ・チェコスロバキアを知る必要があります。
当時のドイツ・チェコスロバキアや他のドイツ・サックスの背景についてはこちらの記事を読んでみてください!
創業期
1925年、『カイルベルト』社はユリウス・カイルベルト/Julius KEILWERTHによってチェコスロバキアの「グラスリッツ/Graslitz」で創業されました。
『V.F.コーラート/V.F.Kohlert& Sons』社で修行したユリウスは、
弟のマックス・カイルベルト(マックスや他のカイルベルト兄弟については記事『ドイツ・サックスの歴史的背景【チェコスロバキアから始まったサックス】』を読んでみてください)と
『オスカー・アドラー』のサックス部門でサックス製造の監修にあたります。これが1920年代のことです。
そしてその『オスカー・アドラー/Oscar Adler』から部品を供給されそれを組み上げ販売する、というかたちで最初の『ユリウス・カイルベルト』社はスタートしました。
『グラスリッツ』ってどこ?
『グラスリッツ』って地名をググっても、ネット上で出てこないんだけど…??とおもってらっしゃる方も多いと思います。
『グラスリッツ』という地名は、ドイツ語で『Graslitz』と表記しますが、これを「ドイツ語」で読んだものが「グラスリッツ」です。
この「グラスリッツ」は、現在チェコ共和国となっている地域のため、今では表記が「チェコ語」となり「Kraslice」そして読み方も「クラスリツェ」に変わっています。
グラスリッツ期
『ユリウス・カイルベルト』はチェコスロバキアとドイツの国家事情に翻弄され、創業から現在まで何度か拠点を移すことになりますが、
この創業の地、グラスリッツ/Graslitz(Kraslice)でドイツ最大のサックス・メーカーに成長することになります。
グラスリッツ期の代表モデル
この時期のカイルベルトのモデルは以下の「KINGシリーズ」です。
モデル名が「The NewKing」「ToneKing」「KING」となっており、それぞれグレード(仕様)が違う、というラインナップでした。
「KING」はこの記事だけのモデルですが「ToneKing」と「NewKing」はカイルベルトの代表モデルとしてそれぞれマイナー・チェンジを繰り返しながら1970年代くらいまで製造されることになります。
TONE KING/Model1刻印バージョン
当時の上位モデルです。画像(右下の刻印部)で分かる通り「Modell1」と刻印されています。
フロントFキィを装備し、KINGモデルよりもこったテーブル・キィになっているのがわかります。
このModell1とModell2はほぼ同じ仕様ですが、Modell1だけの仕様としてアメリカン・オールド・サックスのような「フォークE♭キィ」そしてテーブル・キィ上部の「マザー・オブ・パール(指貝のようにテーブル・キィに貝が取り付けてある)」があります。
このModell刻印は、グラスリッツ中期頃からなくなり、カイルベルト・マークの外周に「THE BEST IN THE WORLD」という文字が加わった刻印に変わります。(”グラスリッツ期モデルの見分け方”の章にある画像を参照してください。)
THE NEW KING/Model2刻印バージョン
画像のとおりマイクロ・チューニング機構がないモデルです。
当時の中位モデルにあたります。Amerikanisches Modell(ドイツ語でAmerican Modelの意味)とも呼ばれました。
KING/Model3刻印
「KING」モデルはカイルベルトのグラスリッツ期だけに見られるモデルです。
当時のエントリー・モデルにあたります。フロントFキィがありません。
この時期のカイルベルト・モデル全てに言えることですが
マイクロ・チューニング機構やロールド・トーン・ホールそしてテーブル・キィの形状などを見るとC.G.コーンの「6M」や「16M」にそっくりです。
※カイルベルトの「KING」はアメリカのブランド『KING/HN.White』の第一号モデル「KING」とは全く関係ありません。ですが、1970年代にはいってからカイルベルトは「KING/HN.White」のステンシル・モデルを請け負うことになります。このあたりについては、以下の記事の『買収後/ステンシル期』の章をご覧ください。
ToneKing/Modell4刻印
ドイツ・サックスに詳しいサイト「Bassic Sax」によると、「Model4」や「Modell L」という標準クラス・モデルも存在していたようですが、TASAKISAXではまだ存在を確認できていません。
ToneKing/Modell solist刻印
トーンキング・モデルの豪華”プロ・モデル”仕様です。
サイドキーがフル・パール仕様になっており、ベル部の彫刻もこったものになっています。
サムフック下部の刻印にはカイルベルト・スタンプと一緒に「Modell solist」と刻印されています。
THE NEW KING Model5刻印
Model5(NewKing管体/シリアル・ナンバー14131/1939年頃製)は”Saxpics“というサイトに画像が掲載されています。カイルベルト『NewKing /Modell5』by saxpics
グラスリッツ期モデルの見分け方
この時期に限らず、カイルベルト管体の大まかな製造時期を知るのに一番良い方法は「後ろのシリアル・ナンバー刻印」部分を見ることです。
グラスリッツ期の管体は、ここに上の画像のような「オリジナル・スタンプ」が見られます。
これは「ナウハイム期」の1970年代まで見られますが、よく見ると「グラスリッツ期」と「ナウハイム期」はスタンプのデザインが少し変更されています。(グラスリッツ期とナウハイム期のスタンプの違いは、次回の記事で解説します)