ジャズに向いている中古サックス
「ジャズやPOPSに向いているおすすめサックスはどれですか?」
たまにこういった質問をいただくことがあります。
単純に答えると、
「ウッドストーンかキャノンボールがおすすめです」となります。
なぜかというと、この2ブランドが現在いちばん「艶っぽくて太い音が出やすいように造られている」からです。
…ですが、アマチュアとして長い目で見たときこういった楽器で出せる音は自分自身が飽きてしまう可能性が高いです。
面倒なヘリクツにきこえるかも知れませんが、
音楽の世界は、最初「楽器を操作することが楽しい(どうやったら上手な人みたいに吹けるようになるか)
」から「人に受けることが楽しい(どうやったら人にウケるか)」に変わり、そしてだんだんと「自分自身が楽しい(自分がどれくらい納得できるか)」にたのしさの重点が移ってきます。
いまの段階では必要ないかも知れませんが、先々で興味の重点が変わったときに、また以下のようなアドバイスを見返していただけたらと思います。
サックスには大きく2種類の奏法がある
サックスには「クラシック向けの奏法・表現」と「それ以外(JAZZ・POPS)向けの奏法・表現」とありそれぞれのジャンルでよく使うマウスピースやリードの硬さが違ったりします。
個人的には管体によってそれほどジャンルの向き・不向きがあると思っていません。
サックスは、マウスピースによってかなりキャラクターを変化させることができるからです。
ーたとえば、YAMAHA YAS-875EXなんかはメーカーが完全に「クラシック向け」として展開していますが
海外のALEX HANというサックス・プレイヤーはこの875EXを使ってジャズ・ファンク分野で超絶技巧なプレイを見せてくれます。
ーヤナギサワのA-992ピンク・ゴールド・プレートという「キラッキラな音」が得意なモデルを、1950年代の「むかしっぽい」ジャズ・ ビ・バップスタイルで愛用しているプレイヤーもいます。(ADAM HUTCHERSON)
ーまた逆に、オールド・ジャズ向きと思われている「Buescher/ビッシャー」でとても綺麗なクラシックを奏でる方も海外にはけっこういたりします。
「吹きやすく比較的上手に聴こえるもの」を選ぶ
ですから、ジャズ向きサックスの選び方としては「自分がなるべくナチュラルに音がだしやすいもの」を選ぶことのほうが大事です。
サックスを選ぶときは、なるべく固定観念なしに以下にあげるような新旧の有名なサックスをいくつか吹いてみて、その中から
- 「自分で吹きやすい」
- 「他の人に聴いてもらって”比較的上手に聴こえるもの”」
の2点を満たすもの見つけ、その1本から似たような傾向・コンセプトのサックスに興味をひろげていく、というのがおすすめです。
手に入れやすい(価格ではなく市場に出回っている、と言う意味で)「コントロールしやすいサックス」
Selmer/セルマーのヴィンテージ
セルマーに関しては、ヴィンテージとなっているモデルがすべてジャズ向きです。
やっぱりなんだかんだ言っても、実際にセルマーのヴィンテージを吹くと、たいていの方が「やっぱりコレだね…」となります。
ただご存じの通り、かなり高額なので、一生つきあう覚悟が求められます。
とにかくセルマーに限らなくてもヴィンテージ・サックスと呼ばれるものは、どれもジャズ向きです。
セルマーのリファレンス
セルマーの中では、この「reference/リファレンス」がアルト、テナーとも操作しやすく、吹きやすく、また色気のある音を出しやすいです。
ソプラノ・サックスのラインナップがまだないのが残念なところです。(ちなみに、たまにソプラノの”リファレンス”がネット上で売られていることがあります。これは明らかにニセモノなので要注意です)
ソプラノ・サックスでは、なんといっても「マーク6」ですが、別の記事でも触れたとおり、ソプラノ・サックスのマーク6は操作がとんでもなく難しいです。
セルマーSuperAction80
また、「エイティ」と呼ばれる「スーパーアクション80」も意外とジャズ・ポップスにはおすすめです。実際に吹いてみると、「セルマーの中の82Z的モデル」と感じます。
セルマー2の重厚さに比べ、操作感が軽く、音質も明るく(それでいてジュビリー前セルマーの音の色気があり)どんどん自分に馴染んでくる感覚があります。
以前、キャノンボール、エイティ、シリーズ2で吹き比べを検証した際も、3台中一番、難しいフレーズがちゃんと吹けました笑
ヤマハ全般
ヤマハは全体的に「操作しやすさ」に重点が置かれているので、古い廃番になってしまったモデルも含めてジャズ・ポップス向きといえます。
80年代〜90年代のヤナギサワ
現在のヤナギサワももちろんジャズ・クラシックどちらも問題ないですが、強いて言えば現行モデルよりも1990年代以前のモデルのほうが軽い造りなので、特に「エリモナ」と呼ばれるモデルや「A-50」「T-50」のような、現在のヤナギサワにはなくなった「エントリー・モデル」などはジャズ・ポップスに向いていると言えます。
Woodstone/ウッドストーン
ウッドストーンは石森楽器さんのオリジナル・ブランドですが、国内JAZZ/POPS界でいま最も人気のブランドなのではないでしょうか。
昨年、東京で現在スタジオ・ミュージシャンとして活躍されているサックス・プレイヤーの方々が一同に会する、という某イベントに行ってきましたが、出演ミュージシャンの8割はウッド・ストーンのサックスを使われていて、びっくりしました。
中古市場ではなかなか見かけませんが2020年現在、国内では間違いなく最も旬なサックスでしょう。
Cannonball/キャノンボール
こちらも現在、世界中の若手ミュージシャンに使われている感じですね。
「JAZZ/POPS向き」という切り口で見れば「大音量・太い音」に振り切っているキャノンボールは、一番ジャズ・ポップス向きといえます。
ただ、80〜90年代にブームになった(そして現在は下火の)パワー系メタル・マウスピースに近い流れだな、と個人的には思っています。
どういうことかというと、アマチュア目線で見ると、こういった「パワー系」はゴルフの「よく飛ぶドライバー」のようなもので、とっつきやすく、ハデでたのしいのですが、
長い目で見るとほぼ基礎力が身につかずあとあと行き詰まってしまう…という怖さももっています。
もちろん、一番「旬なかっこよさ」を楽しめるので気軽にかっこよく吹きたい方、中級以上の方などにはおすすめです。
gottsu/ゴッツ
ゴッツはマウスピースで有名なブランドですが、オリジナル・サックスも販売されています。
ゴッツのサックスはまさに「所有欲をくすぐられる」という感じで、一見ヴィンテージに見える渋い管体の風合いと、現代の楽器なのに枯れた音色が出しやすい、という魅力を持っています。
Chateau/シャトー
シャトーは東南アジア製のサックスですが、日本の有名メーカーの下請け製造をしていた時期が長いそうで、造りがしっかりしたメーカーです。
とくにアンティーク仕上げのバージョンは、「音が太いヤマハ」といった印象で、リーズナブルな価格帯の中では一番ジャズ向きだと思えるサックスです。
『上級編』オールド・サックス
ここでいう「オールド・サックス」とは、 1920〜1930頃のアメリカ製サックスを指します。
この時期のアメリカン・サックスは、なんといっても「当時のアメリカではジャズが最先端のダンス・ミュージックで、そのジャズ人気を受けてできたサックス」ばかりなので
「ジャズ用サックス」といっても過言ではありません。
ただ、現代のサックスとはキィアクション、特にテーブル・キィの配置が違うので
購入前にまず慣れることが必須です。
ですが、「当時のプロ・ミュージシャンもこれを使っていたんだから演奏できないはずはない!」と勢いと気合で手に入れるのもアリです笑
「オールド・サックス」は、15万〜20万で手に入るのでそれほどハードルは高くありませんが、修理・調整できる職人さんがそれほど多くないのでその点注意してください。
C,G,Conn/コーン
コーンは1880年頃にはサックスを製造していたので(ちなみにセルマーの第一号モデルは1922年)あまり初期のモデルになると、キィアクション的に演奏に向きません。
マイクロ・チューニング・デバイスがついている「ニュー・ワンダー」「ニュー・ワンダー2」「6M(ネイキッド・レディ)」がおすすめで、ネットでもよく見かけると思います。
Buescher/ビュッシャー
Buescherはゴールド・プレート・モデルが断然おすすめです。特にテナーのGP(ゴールド・プレート・モデル)は味があって温かい音が素晴らしいです。
モデルでいうと「TRUE TONE series4(シリアル・ナンバー22万番代以降)」「アリスト・クラット」です。
この後のモデルで「400」というのがありますが、時期によって品質にかなりの差があり、見極めが難しいです。
また、さきほどあげた「TRUE TONE/トゥルー・トーン」は、series1からseries3まではキィアクションが古すぎて習得が難しいです。
他にもマーティンやキングなどありますが、まず最初のオールド・サックスとしては、コーンかビュッシャーがおすすめです。
まとめ
2000年以降、日本国内ではキャノンボールやウッドストーンがジャズ・ポップス界でポピュラーになりつつありますが、
海外では「オールド・サックス」を愛用する旬なミュージシャンがかなり増えてきています。
この海外の動きが個人的には興味深いと思っています。
もともとジャズ・ポップス・サックスは楽器を自分の声とするのが一番たのしいところです。
そういった意味で、あまり常識にとらわれすぎずにいろいろなサックスを試してみてください!