歴代セルマー解説!セルマーの過去モデルを第一号モデルから非公式モデル、そしてジュビリー前まで解説します③
今回の記事は「歴代セルマー解説」3部作のラストとなります。
それでは一気にアルト・サックスを使って歴代モデルをご紹介いたします。
前回ご紹介したモデルに関しては、前回の記事に戻って記事を見ていただくとより分かりやすいです。
※「歴代セルマー・サックス解説!【中編】」はこちら(マニアックなセルマー・モデルを中心に解説しています。)
<歴代セルマー・サックス紹介の目次>
- ステンシル・セルマー【自社製造前】
- 1号モデル「シリアル・ナンバー750」【自社製造 開始期】
- モデル22/modele22【本格生産開始】
- モデル26/modele26
- モデル28/modele28【キィレイアウトの試行錯誤期】
- S,S,S/セルマー・スーパー・シリーズ【オクターブ周りの試行錯誤期】
- バランスド・アクション/Balanced Action
- スーパー・アクション(スーパー・バランスド・アクション/S.B.A)【現代セルマー確立期】
- マーク6/Mark6
- マーク7/Mark7
- スーパーアクション80/Super Action80
- スーパーアクション80シリーズ2/SuperAction Serie2
スーパーアクション80シリーズ3/SuperAction80 Serie3 - シリーズ3/Serie3
- リファレンス/Reference
ステンシル・セルマー (シリアル・ナンバー #1〜249)
【製造年:1900年ころ〜1910年ころ】
セルマーは自社製サックスを製造する前に「ステンシル」サックスを発表しています。これはアドルフ・サックスの息子(アドルフ・サックス・Jr)が営んでいた工場製の「アドルフ・サックス/Adolphe Sax」に「Selmer」の社名を刻んだものでした。※以降シリアル・ナンバーは “#”で表記します。
↑セルマーの「アドルフ・サックス Jr “ジュニア”製ステンシル」サックス。まだセルマーのロゴなども無い時代のもの。ベル部に筆記体で”Selmer”と刻まれています。(1900年前後)
<画像元:”Saxophone.org”>
これがおおきく2期に分類でき、1つは「単純にアドルフ・サックス(Jr.モデル)に刻印を入れただけの”初期ステンレス・サックス”」そして2つめは「セルマーの監修、アドルフ・サックス製造によるコラボ的モデル”ゴールド・メダル”」でした。(※もう1度言いますがこの時代の”アドルフ・サックス”は”ジュニア/息子”の世代になっています。)
<ステンシル・セルマー「ゴールド・メダル/ GoldMedal」> (#250〜1016)
【製造年:1910年〜1921年】
↑セルマー「アドルフ・サックス Jr “ジュニア”製ステンシル」”ゴールド・メダル”サックス。ベル部の彫刻や指貝などがだいぶそれっぽく進化しています。
<画像元:”Saxophone.org”>
この「ゴールド・メダル」がその前のステンシル・モデルとちがうのは、製造自体はアドルフ・サックスJrの工場製であるものの、セルマーが管体の設計も監修した点です。
<番外編>”セルマーU.S.A”ステンシル/ SelmerU,S,A Stencil (C,G,ConnまたはMartin製)
”セルマーUSA”ステンシルのロゴ彫刻。管体が明らかにアメリカ製サックス(この個体は”マーティン/Martin”製)なのでわかりやすいです。
【画像出典: サックス買取ラボふくおか】
上記のフランス・セルマーの動きとは全く無関係な、アメリカ製の「セルマーU.S.Aステンシル」についても触れておきます。
セルマーU.S.Aとフランスのセルマー本社との関係については以下の記事で詳しく解説しています。
記事のとおり、1911年にセルマーのアメリカ販売代理店としてバンディ氏が独立したまもないころ、セルマーU.S.Aは当時のアメリカ製サックス「コーン/C.G.Conn」や「マーティン/Martin」のステンシルをセルマーU.S.Aサックスとして販売していました。
「ステンシル」ということでサックス創成期のセルマー・サックスと混同してしまうかもしれませんが、
「セルマー創成期ステンシル」と「セルマーU.S.Aステンシル」の違いは
- 「セルマーU.S.A」ステンシルは「コーンかマーティン管体(アメリカ製)」
- 「SelmerU.S.AかSelmer NewYorkと刻印してある」ということ
- 創成期「Selmer」ステンシルは「当時独特の、筆記体での刻印」「アメリカのブランドではない管体(アドルフ・サックス製)」ということ
です。
1号モデル「シリアル・ナンバー750」(#750)
【製造年:1922年】
セルマー自社製の第一号とされる「シリアル・ナンバー750」(1922年)。ここからmodele22までの「#750〜1399」はどれも1922年製ですが過渡期的な個体が続き、個体ごとにデザインが異なります。
この個体「#750」の特徴は、「まだオクターブ・レバーが2つ」なことです。詳細は以下の記事を御覧ください。
この#750から「modele22刻印モデル」登場まで(#1300番台後半)は、プロトタイプ的な個体が続きます。
シリーズ1922/ serie1922 (#760前後)
【製造年:1922年】
セルマーの公式年表にはありませんが、”serie1922″と刻印されたモデルが存在します。アトリエ・パンパイプさん所蔵のこの個体がそれで、シリアル・ナンバーは769。特徴としてはオクターブ・キィが1つに改良され、ほぼmodele22の原型的な特徴を備えていること、そして接続リングに”CORPS EMBOUTIS H,SELMER”と刻印されていることなどが特徴です。
実物を見る限りmodele22よりも凝ったデザインになっており、この個体をプロトタイプとして、大量生産に適した形で「modele22」の仕様に落ち着いていったのではないかと思われます。
モデル22/ modele22 (#1400前後〜 4450)
【製造年:1922年〜1925年】
シリアル・ナンバー1400からと言われている「公式モデル第一号」がこの「モデル22/modele22」です。
通称「シガー・カッター」と呼ばれるモデルが出るまでの基本的なフォルムがこの modele22からつくられました。
※セルマー公式サイトをはじめ「modele22は#1400から」と書いてありますが、当店在庫のmodele22には#12xxが存在します。
ですので正確には「#1400前後」となります。
モデル26/ modele26 (#4451〜7850くらい)
【製造年:1926年〜1928年くらい】
modele22に続くmodele26は、その名の通り1926年から製造されたモデルです。
このモデル後期から「フロントFキィ」が搭載されます。(クランポンやコーンなどはもっと前の時期からすでに”フロントFキィ”搭載済み)
また、このモデルから現在のセルマーのロゴが採用されます。
modele22よりも管体の口径(ボア)が大きくなっているので、発売当時は「Large Bore/ラージ・ボア」と呼ばれていた、という記録も残っています。
モデル28/ modele28【キィレイアウトの試行錯誤期】(#7300前後〜8000くらい)
【製造年:1927年くらい〜1928年】
molede26の次に発売されたのがmodele28です。「modele28」と刻印されている個体は世界的にごくわずかしか現存していないのですが、その理由としては前の記事『歴代セルマー・サックス解説!【中編】』をご覧ください。
シリアル・ナンバーの期間を見るとおわかりの通り「modele26」と製造時期が一部混在しています。このことからも「modele28」は過渡期的モデルだということがわかります。
海外の「セルマー・シリアル・ナンバー表」には、modele28は#7300から、と書いてあるものが多いのですが、当店のmodele28は#728xですので
「#73000前後」という表記が正しいと思います。
<ニュー・ラージ・ボア/ NewLargeBore> (#7851〜14000)
【製造年:1928年くらい〜1931年くらい】
modele28以降の、「modele28」刻印がなくて、次のシガー・カッターまでの「移り変わり」の時期にあたるシリアル・ナンバー個体をマニアの間では
「New Large Bore」と呼んでいます。なぜこんな面倒な分類が必要なのか?については上記『歴代セルマー・サックス解説!【中編】』の記事で説明しています。
この呼名の由来はmodele26が「ラージ・ボア」と呼ばれていたことから来ています。
S,S,S/セルマー・スーパー・シリーズ【オクターブ周りの試行錯誤期】
「通称「シガー・カッター」モデルから「ラジオ・インプルード」までの3モデルはベル部に「S,S,S」をデザインしたマークが刻印されています。
「S,S,S」とは「セルマー・スーパー・シリーズ」の頭文字です。
シリアル・ナンバーでいうと「11951から21750」までです。
“S,S,S”刻印がある「シガー・カッター」「ノン・シガー・カッター」「ラジオ・インプルーブド」は「S,S,S(スーパー・シリーズ)というモデルの「オクターブ機構の”マイナー・チェンジ・バージョン”に、それぞれ後世のコレクターが名前をつけたもの」といえます。
愛称としての「シガー・カッター」があまりにも有名になっているので機種名と誤解しがちですが、おそらく「Super Series/スーパー・シリーズ」のほうが正式モデル名です。
<S.S.S>シガー・カッター/Ciger Cutter (#14001〜17250)
【製造年:1931年〜1933年】
S.S.S刻印モデル第一期がこの「シガー・カッター」です。しつこいようですが「シガー・カッター」は正式なモデル名ではなく、愛称です。(愛称が一般化してセルマー公式でも”シガー・カッター”と明記されていますが、このモデル名の刻印はどこにもありません。)オクターブ機構の台座が「シガー・カッター」に似ているのでこの愛称がついています。
特徴はなんといっても「シガー・カッター」部と「キィ・ガード」です。このキィ・ガードは「ラジオ・インプルーブド」まで続きます。
<S.S.S>スーパー/ノン・シガー・カッター/ Super / Non Ciger Cutter (#17251〜18700)
【製造年:1933年〜1934年】
「シガー・カッター後期/SSSモデル第2期」ともいえる通称「ノン・シガー・カッター」。この名前の由来は、「シガー・カッター」と全く同じつくりなのにオクターブ機構だけマイナー・チェンジされていることから由来しています。ちなみにこういった「部分的なマイナー・チェンジ」はセルマーのお家芸ともいえるもので、現行セルマーでもこの風習は残っています。ちなみにコレクターの間では上記の理由から「Super/スーパー」と呼ばれることも多いです。
<S.S.S>ラジオ・インプルーヴド/ Radio Improved (#18701〜20100)
【製造年:1934年〜1935年】
S.S.S刻印モデルの最終形。このモデルにはちゃんとベル部に「Radio improved」と刻印(というかおそらく”S.S.Sのラジオ放送対応モデル”という意味の刻印。ちょうどマーク6が電気楽器に対応できるようマーク7に改良されたのと同じような事情だったと思われます)されています。
このモデルもシガー・カッターと基本的な構造は同じですが、オクターブ機構がさらに改良されています。
アドルフ・サックス(selmer買収後)/Selmer-Adolphe Sax (#120番台くらい〜3600)
【製造年:1931年〜1944年】
セルマーは1928年にアドルフ・サックスを買収しています。そして買収後3年はこの「アドルフ・サックス/Adolphe Sax」という商標を使っていませんでしたが、1931年にセルマー製「アドルフ・サックス/Adolphe Sax」を発売します。
この時期の「セルマー製アドルフ・サックス」は、ちょうど現在の「セレス・アクソス」のようにセルマーの中位の価格帯・市場を狙ったラインでした。
管体の特徴を見ると、アドルフ・サックスの刻印が入っていますが、「シガー・カッター」の特徴に近いです。
その後1936年に実質的な製造は行われなくなり、第二次世界大戦が始まる1941年に完全に製造を中止します。その後、在庫を1944年まで販売しています。
ちなみに、セルマーから発売された「130thアニバーサリー・モデル」はアドルフ・サックスの外観的特徴を復刻しているとうたっていますが、オリジナルのアドルフ・サックスではなく、この時期の「セルマー製アドルフ・サックス」の復刻,オマージュと言えます。また、最近発売されたセルマーの「アドルフ・サックス限定モデル」もこの130thモデルとほぼ同じ作りです。
バランスド・アクション/Balanced Action (#20101〜35800)
【製造年:1935年〜1948年】
サックスの歴史を変えたと言われる「バランスド・アクション」は、それまでどのメーカーも採用していなかった「ベルの右側にトーンホールを揃える」というキィシステムを搭載しました。
このモデル以降、世界中のサックス・メーカーがこの仕組みにならいました。
ただし、以下に紹介する「ジミー・ドーシー・モデル」のように「オールド・スタイルのキィアクションのほうが良い」とするプレイヤーもいたようです。
<バランスド・アクションの特別仕様:ジミー・ドーシー・モデル/Jimmy Dorsey> (#23800〜24600, #2700〜27650)
【製造年:1937年〜1939年】
ジミー・ドーシー・モデルはその名の由来となった「ジミー・ドーシー」のために特別仕様として造られたもの。これは「バランスド・アクション」にわざわざシガー・カッター〜ラジオ・インプルーブド期のキィ・システムを移植したものです。詳しくは前の記事「中編」をご覧ください。
ジミー・ドーシー・モデルには「ドーシー」と「ドーシー2」が存在します。
セルマーU.S パッドレス・サックス (#27000〜29999)
【製造年:1941年〜1946年】
とても味のある音で、ゴム部の交換さえできれば「S.B.A」くらいに人気がでるだろうな、と思えるモデルです。
この変わったサックスは、セルマーU.Sの設計、そしてBeascherのパーツ製造というコラボレーション・モデルです。
パッドレスに関する機構は1940年にアメリカで特許をとりましたが、その製造は第二次大戦のためにフェード・アウトしてしまいました。
スーパー・アクション / スーパー・バランスド・アクション / S.B.A (#33000〜55200)
【製造年:1946年〜1954年】
「バランスド・アクション」ではまだ「インライン」だったトーンホール配列を「オフセット」にしたモデルで、現代サックスのように自然な構え方で演奏できるようになった最初のモデルです。現在では(特にテナーは)マーク6をしのぐ高騰で、ビンテージ・セルマーの代名詞になりつつあります。
皆さんご存知のとおり、正式モデル名の「スーパー・アクション」よりも「SBA/スーパー・バランスド・アクション」の呼び名が一般的です。
このモデルからマーク7までが「アメセル」「フラセル」の違いによる個性の違いが重要視されます。
(細かいことをいうと、”アメリカ製セルマー”はスーパー・サックスあたりから存在し、見分けることができます。)
マーク6/ Mark6 (#55201〜233900)
【製造年:1954年〜1975年】
言わずと知れた「ザ・ビンテージ」。このモデルにも「アメセル」と「フラセル」があります。マニアックなことをいえば「ロンドン・セルマー」個体も存在します。
マーク7/ Mark7 (#233901〜303100)
【製造年:1975年〜1980年】
フュージョンでは人気の「マーク7」は、前期モデルと後期モデルがあります。よく言われる「テーブル・キィが異常に大きい」のは前期モデルで、後期モデルはやや小さくなっています。
後期モデルには彫刻がはいっている個体が少ないのは有名ですね。彫刻なしモデルの「アメセル」を見分けるには「ラッカーの色」や「オリジナル・タンポのへりに残ったラッカー」そして「接合リングの中」などを判断材料にします。
スーパーアクション80/ Super Action80/”シリーズ1″または”エイティ” (#303101〜378800)
【製造年:1980年〜1986年】
現行セルマーの元祖となるモデルがこの「SuperAction80」です。後継モデルの「シリーズ2」に比べ、軽めのつくりで音が軽快、操作感も軽い印象です。
スーパーアクション80シリーズ2/ SuperAction Serie2 (#378801〜)
【製造年:1986年〜】
マーク6とならぶ超ロングセラーモデル。特に「初期」のシリーズ2は独特な木管的低音と深い中音域を出すワン・アンド・オンリー機として、後に銘器と言われるであろう個体です。
「セルマー=吹き込んで音を育てる」をサックス界に浸透させたモデルでもあります。
ジュビリー期以降のシリーズ2はまた別モデルと言ってよいほど変化しているので、シリーズ2購入を検討される場合は、ぜひ「ジュビリー前」「ジュビリー後」を吹き比べることをおすすめします。
<スーパーアクション80シリーズ3/SuperAction80 Serie3>
現在、「シリーズ3」は「スーパー・アクション80」と別のモデル、という位置づけですが、初期の個体には「Super Action80 Serie3」と刻印されているものが存在します。
シリーズ3/Serie3 (#518001〜)
【製造年:1995年〜】
「ジュビリー・セルマー」の音のキャラクターの方向性「軽い吹奏感、輪郭がはっきりとしていてツヤがある音」はこのシリーズ3の登場からはじまりました。
レコーディング向きのはっきりとした音、そして特に高音域の安定性はシリーズ3の最大の特徴です。
ちなみに本田雅人さんいわく「シリーズ3はトータルのピッチが低めなので、ゆるゆるなアンブッシュアで吹くジャズ奏法のプレイヤーにとっては選択しにくいモデル」とのことです。(ちなみにT-スクエアの伊東たけしさんはserie3のアウターリング・シルバー管体モデルを愛用しています。また渡辺貞夫さんも2000年代初頭はserie3スターリング・シルバー管体でした。)
リファレンス/Reference (#593201〜)
【製造年:2000年〜】
とにかく吹きやすく、音色や音の太さを「補正してくれる」モデルです。弱い息で吹いてもかっこよく鳴ってくれるのでストレスを感じたくない方におすすめです。
いうほど「復刻」という感じは正直しませんが、「弱い息も音にしてくれるので表現の幅が広い」という意味ではマーク6の「5ディジット」などに通じる特徴といえます。
テナーには「54」と「38」の2タイプあります。「マーク6」と「バランスド・アクション」ほどの違いはありませんが、優しい音や丸い音を出したい方は「38」のほうが良いと思います。また、このリファレンスにも「ジュビリー前」と「ジュビリー後」があるので、ぜひ吹き比べて検討してください。
リファレンスは
- アルトが「reference54」の1モデル
- テナーが「reference38」と「reference54」の2モデル
です。
referenceもジュビリー前とジュビリー・モデルが存在します。
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